113話 出撃


「筒衆、準備は?」


「まもなくかと」


ゼノビアの問に配下のヴァラヴォルフ族の戦士が答えた。


 馬出しではガシャ髑髏どくろ達がヴァラヴォルフ族の組頭に指揮され、城壁の狭間で暴筒を構えている。


(ハハっ、いよいよだね)


 ゼノビアは櫓の下で射撃準備を整えるガシャ髑髏達、筒衆を見て思わず笑みがこぼれる。

続いてゼノビアの視線は馬出し城門で待機する逆襲部隊に写った。

逆襲部隊は馬出しを守る者達で構成されているため大半が歩兵だ。指揮官のみがアセナに乗っている。ゼノビアの視線に気づいたのだろう、指揮官は手を振っている。


(ラインハルトめ、手柄を独り占めしようたってそうはさせないよ)


ゼノビアは最後に城へと視線を移した。


 義清の許しを受けてゼノビアは敵を馬出しへ引き寄せることに成功した。

あとは殲滅できるか否かが勝負の分かれ目となる。最初に敵を暴筒でできる限り動揺させる必要がある。敵は新兵器の登場に驚くだろうが、指揮官が優秀なら大勢を立て直してくるかもしれない。


 そうさせないための仕掛けはしたつもりだ。

馬出しの施工直前に城壁下に施した物がそれだ。

城壁の下の土台となる石は馬出し内から抜き取れる部分がある。ここに暴筒を突っ込み射撃するのだ。ただ突っ込むだけなので狙えはしないが、轟音をとどろかかせることはできる。


 新兵器の投入はその数が多ければ多いほど、敵を混乱させることができる。

とにかく最初にできるだけ多く暴筒を撃ち込むことが重要だ。


「各櫓から合図あがりましたぞ!!」


ゼノビアの横の戦士が叫んだ。


 櫓が敵の接近十分と判断して青い旗を振っている。

中には旗をちぎれんばかりに振っている櫓もある。敵が接近しすぎていると言っているのだ。手柄欲しさに暴走しそうな配下の者を抑えるのに苦労しているので、さっさと撃てとゼノビアに催促しているのだ。


「頃合いや良し、暴筒放て!!」


ゼノビアは腰の采配を取ると一気に振り下ろした。


暴筒組頭の号令の元、ガシャ髑髏が射撃を開始する。凄まじい音とともに城外で悲鳴が上がった。

暴筒の三斉射を終えて敵の混乱十分と判断したゼノビアは、馬出し城門で待機する逆襲部隊指揮官に合図する。


「今ぞ!!城門開けい!!討って出るよ!!」


ゼノビアの合図に馬出し城門が勢いよく開くと兵が続々と城外へ繰り出していく。

その様子を見ながらゼノビアの横の戦士がささやいた。


「そろそろ城へ合図を出しませんと‥‥」


「わかってるよ。鏑矢かぶらや放て!!」


ゼノビアは逆襲部隊出撃を知らせる合図である、オアシス奪還でも使用した鏑矢を撃たせる。

 特徴的なかん高い音が響き渡たった。鏑矢を放つタイミングは正確には逆襲部隊出撃を知らせる時だ。馬出し城門を開けて部隊が出撃した後では、ややタイミングが遅い。城では鏑矢に合わせて出撃するようにラインハルトが待機しているはずだ。


 ゼノビアは自部隊が手柄を立てやすいように、まずは馬出し逆襲部隊が接敵するよう、わざと鏑矢を放つタイミングを遅れさせたのだ。こうするば騎乗部隊を持つラインハルトの部隊に速度で優ることができる。加えてラインハルトの部隊は馬出しの逆襲部隊を避けて敵の側面に回り込まざるを得なくなる。接敵するまでの距離が伸びるのだ。

 戦後なにか言われても、敵の側面にラインハルトの部隊を突かせるのが適切と思い土壇場で判断したと言えば通るだろう。


(見たかいラインハルト、手柄はあたし達で頂きだ)


 しかし、ゼノビアの予想よりラインハルトの反応は早かった。

馬出しから逆襲部隊が出撃すると、ラインハルトは鏑矢の合図を待つことなく大手門を開くと部隊を出撃させた。これはラインハルトがゼノビアの手の内を読んでいたというわけではなく、暴筒の斉射が行われた段階でラインハルトは部隊に出撃を命じていたのだ。やや勇み足であったが結果としてラインハルトは出撃のタイミングを完全に掴み取った。


 ラハブに乗ったボア族の騎乗部隊を先頭に、ときの声を上げながら城から続々と兵が出撃していく。

 ボア族の騎乗部隊と歩兵が出撃すると、城からヴァラヴォルフ族の騎乗部隊と歩兵も出撃してきた。

ゼノビアが城に残した一族の半数を副長のアルターが率いて討って出てきたのだ。


 暴筒の射撃で生じた紫色の煙の中から逆襲部隊が怒号と共に現れて遠征軍へと襲いかかる。

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