104話 火蓋切られる


「いざ、世界に仇なす害虫共を一掃する時!!かかれっ!!」


 遠征軍総司令官イルドガルド・ラインバウト・ダウレンガの号令の元に、遠征軍は大禍国の新城へ一斉に攻撃を開始した。

 遠征軍は城の東にある正面入口である大手門前の馬出しに兵力を一点集中して攻撃してくる。

ここを突破して大手門をこじ開け正面から堂々と入城するというのがダウレンガの示した作戦だ。

 遠征軍は半円状の馬出しへ三方から、東と南北から兵を詰めてくる。

 遠征軍の兵力は合計二万五千の大軍勢だ。そのうち五千をこの馬出しの攻撃にあてている。残りは後方待機だ。適時前線と後方を入れ替えて休み無く馬出しを攻撃し続ける。そうして疲弊したところを一気に乗り込み陥落させるつもりのようだ。

 ゼノビアは馬出し中央に組まれた櫓に陣取り指揮を取っている。

 遠征軍は盾を並べて一斉に前進をしてくる。城壁と櫓には既にヴァラヴォルフ族が弓を構えて、準備万端に敵を待ち構えている。その後方でスケルトンが矢筒をもち従者として従っている。

 ゼノビアは遠征軍をじっと見つめる。その様子を城壁と各櫓の、指揮官である組頭はまばたきもせず注視する。

遠征軍がある程度進むとゼノビアはすっと手を挙げる。すると各組頭が指揮下の戦士達に言う。


「弓構えい。まだ狙わずともよい」


ゼノビアはなおも敵を見据え腕を上げたままだ。やがてその手がグッと握られた。すかさず各組頭が言う。


「弓引けい。じっくり狙え、いよいよだぞ」


 遠征軍はズンズンと大挙して押し寄せてくる。恐怖を押し殺しているのか味方を鼓舞するためか、時々示し合わせてときの声を大声で上げている。

 いよいよ城壁が間近に迫り、これあら駆け足に移ろうかとした刹那、ゼノビアが全力で腕を振り下ろした。組頭が配下へ大声で怒鳴る


「放てい!!」


 引き絞られた弓から放たれた矢が、城壁から一斉に遠征軍へと降り注ぐ。途端に遠征軍からいくつもの火花が散った。守り手が放った矢が遠征軍の盾の防御魔法を打ち破ったのだ。

 途端に遠征軍の前線の足が止まる。後方の指揮官は何事かと兵を怒鳴りつけ前進を促す。

そうしている間に城からの第二斉射がくる。今度は火花が散る盾もあれば、盾を構えた兵士が吹き飛びもした。


「驚いたな。防御魔導がはじけ飛んだぞ」


大手門に築かれた櫓から義清は思わず驚きの声を漏らした。


「何かの罠か?それにしては手が混んでいるような」


ラインハルトがいぶかしげに答えた。


「いや、北側の兵の足が止まったぞ。東は馬出しの影で見えんが、南も遅くなった。これが罠なら大したものだ」


「義清さまあっ」


ここで櫓の下からベアトリスが義清を読んだ。


「どうしたベアトリス?」


「エカテリーナさんがやっぱり敵の探知魔導と同調できないって泣きベソかいてます」


「そうか、すぐ行くと伝えてくれ」


はーいと返事をするとベアトリスはいたずらっぽく笑いながら走って行ってしまった。

義清は振り向いてラインハルトにどうなったと尋ねる。


「ゼノビアが四斉射目を放ったところですぞ。敵の足は完全に止まりましたな。城に仕寄ってもいないのに、なさせない奴らですな。ところで大殿」


ラインハルトは義清の方に向き直る。


「疑ってばかりいてもしょうがありません。遊撃隊の編成は終わっております。ひと当たりし様子をみるのも一考かと」


少し考えて義清は言った。


「エカテリーナと議す。その方は遊撃隊をいつでも出撃しておけるようにしておけ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る