103話 馬出し
「
ラインハルトは
ラインハルトの視線の先には城に迫る遠征軍のずっと奥でひっくり返る、攻城塔がある。
攻城塔は木でできた三階建てほどの大きな移動式の櫓だ。中には兵士を山程入っており、左右と後方から押して城へと隣接させる。城へと迫ると壁を倒して足場にし、城へと兵を入れる。手っ取り早く壁を超えたい時に使う兵器だ。
その兵器のほとんどは横倒しになっているか、地形にはまり込んで
城の周辺にエカテリーナとベアトリスが設置した魔導罠にはまり込んだのだ。
魔導罠は単純なものから地形を幻視させる高度なものまで様々だ。
今回は城周辺の地面を魔導罠で硬化させている。一定以上の重量の物が集中してその上を通ると硬化が溶ける仕組みだ。地面はあらかじめドワーフ達が細工しており、表面は硬いが少し掘ると柔らかくなっており、とても重量物を支えられる作りではない。今回の罠はいわば魔道士であるエカテリーナとベアトリス、土のことを知り尽くしたドワーフのあわせ技となる。
遠征軍の城を攻めるのを担当する、寄せ手と言われる兵士たちはこの事態に少なからず動揺した。
自分達が難なく通ってきた場所で攻城の主力兵器が崩壊したのだ。指揮官である領主達は兵士を鎮めるため一旦城から距離を取ったほどだ。
「ベアトリスの罠まで全て発動したように見えるな。敵はよほど探索魔導を怠ったとみえる」
義清の指摘通り、ベアトリスの魔導の腕はエカテリーナに劣る。遠征軍はしっかりと探索魔導であたりを探ればベアトリスの罠には気づいたはずだ。
「寄せての中にある旗に見覚えがありますな」
「だろうな、あれはヴォルクス家の旗だ」
義清は黒地に王冠を着けた蛇が3匹絡まり合うヴォルクス家の旗を覚えていた。
ヴォルクス家は先の義清との密約で自兵への被害を避けるために、ローゼンとウルフシュタットで一つの旗に統一している。本来であればこれはウルフシュタットの家の旗のはずだ。
「しかし、敵は馬出しに一点集中の布陣ですな」
ラインハルトが言う馬出しとは大手門に築かれた施設を指す。
大手門の前にある巨大な堀を渡った先に、半円状の高さ五メートル程の土を盛った
土塁には一定間隔で櫓があり、
馬出しと呼ばれるこの施設は防御施設であると同時に、一種の集合地点の役目を担っている。
城兵が場外へ出る時にここで集合して隊列を整え、一気に城外に押し出て敵を逆襲するのだ。
本来馬出しとと大手門は一つの壁の中にあるはずだが今回は違う。
大手門を出て堀を渡ると五十メートル程城外に出た後に馬出しに通じる門がある。
馬出しが城の外で孤立しているのだ。ひと目であわてて城に作り足した、急造品であるとわかる。
これは馬出しに籠もる種族に起因する。
遠征軍が大森林に侵入し、いよいよ決戦近しと言う時のこと、大主教が後方の本城からガシャ
数の多さに驚いた義清が理由を問いただすと大主教はこともなげに言った。
「貴殿ノ元いタ城‥‥本城かラ見つケタ。アそコにハ死体がたクさんアる。ヨい地だ。彼ノ地には古きもの達ノ名残を感じル。古いが新シい
話がさっぱりわからないので大主教と一緒に来た、本城の
大主教はいつの間にか新城の築城現場から姿を消すと、少数の兵を率いて本城へと勝手に移動していた。
そして来る日も来る日も経典を広げて本城内を歩き回っていたそうだ。
そしてある日突然、本城内の地面から大量のガシャ髑髏とスケルトンを呼び出したそうだ。
「そうか!!エカテリーナが葬った前世界の貴族軍だ!死体も残っていないから消えたかと思ってたけど‥‥」
話を聞いてあの現場を目の辺りにし、多少魔導にも明るいゼノビアはすぐにピンときた。
大主教はある朝突然読めるようになった経典の一文に導かれ、転移前の貴族軍の死体を自軍へと組み込んだのだ。
大主教が率いる
それが今や四千を超える大軍勢となっている。
当然収容できる場所がない。
それで急遽城外に収容施設である馬出しを築いたのだ。
今や新城にはラインハルト率いるボア族二千、ゼノビア率いるヴァラヴォルフ族二千、義清配下の黒母衣衆一千五百、大主教率いる骸骨集団四千五百、合計一万を超える大軍勢が籠もっていた。
ゼノビアはヴァラヴォルフ族の半分である、千人を率いて馬出しに籠もることを志願した。
その際にスケルトン一千とガシャ髑髏五百を指揮下に入れている。
ラインハルトは新城内で別の側面の守りを固めつつ、遊撃隊を編成する。敵が攻めていない城門を開き遊撃隊を出撃させ敵を、守り手と遊撃隊で挟み撃ちにする作戦だ。
大主教は残りのガイコツ軍団を率いてラインハルトの補佐をする。指揮はスケルトン総指揮官に譲った。新城本体防衛の中核はラインハルトだが、数から言って主力となるのはガイコツ軍団だ。
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