93話
クロディスの民が催した宴は盛大なものだった。
砂漠では貴重な野菜がふんだんに使われ、肉は主食になっているため干し肉生肉を問わず大量に使われた。
酒は独特のものが出され熱くもないのにずっと湯気が出ているという不思議なものが出された。
宴の最中に義清はとあるテントに呼び出された。義清の御付きの物が警戒して同行しようとしたが、義清はそれを制してテントへと向かった。
テントは遊牧民が使うゲルと呼ばれる物に似ていた。中心を二本の柱によって支えられた骨組みを持ち、屋根部分には中心から放射状に梁が渡されている。砂漠では貴重な白い布が使われるテントは、それが神聖な物であることを表していた。義清は後から知ったが石を加工して家が作られる前の時代には、クロディスの民はこうしたテントで生活していた。今は特別なときにしか組み立てないが、それでもクロディスの民にとっては先祖から受け継ぐ大切な品の一つだ。
義清がテントに入ると左右に数人の10人程のクロディスの民が輪になって座っていた。
輪の中には豪勢な食事と酒が用意されている。テント外ではボア族とヴァラヴォルフとクロディスの民楽しそうに大声で騒ぎながら笑い合っている。入り口にいた案内人と思われる者が義清を入り口から一番遠い場所に案内すると、一礼してテントから出ていった。
10人程のクロディスの民はみんな白いヒゲを生やしている。義清がどこか違和感を感じそれを見ると義清の向かいのクロディスの民が口を開いた。
「ハハ、お察しの通りこれは地毛ではありませんよ。動物の毛でしてな、まあ一種の役職の証の様なものです」
「長老会と呼ばれるものかな?ヴァジムから大まかには聞いている。この砂漠の統治機関だとか」
義清の答えに今度は右前方の女性のクロディスの民が答える。
「それぞれの村の長などが集まって作っています。他にオアシスや砂の河を管理するもの、商人との取引をする者の長などですよ」
そうすると今度は義清の左向いのクロディスの民が話し始めた。
「この毛は長老会に出席するときにつける習わしでしてな。昔は長老会と言われるだけあって本当に年老いた者の集まりでしてな。それが今のように、老いも若いも混じりだしたときに始まったものですよ。その頃は若い人が年寄りに見せるために付けていたらしいですが、今はこの通り全員つける習わしになりましてな」
それから年老いたクロディスの民が義清の右にいるクロディスの民が口を開いた。
「もっとも、私達は年老いてもこんなヒゲは生えませんがな。これはよその土地でそういったヒゲが生えるというのを聞いた者たちが始めたそうですよ」
このあたりで義清は喋る人それぞれを見るために頭を回していたので、首が痛くなってきた。
それを察したのか最初に喋った、義清の向かいに座るクロディスの民が両手を上げた。
「さあさあ、みなさんもうその辺でいいでしょう。せっかく客人がいらしてくれたのです。ここからは本題に入るとしましょう。申し訳ありませんな義清様、私達はよその土地からくる旅人などとはよく話す習わしでして」
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