76話 強襲1-4

 ゼノビア率いる北方方面担当軍である土蜘蛛部隊、本隊は順調にオアシス中心部へ続く道を進撃していた。

本隊は、指揮官であるゼノビアが先行部隊の指揮を取っているので、ヴェアヴォルフの戦士が代理で指揮を取っている。

 土蜘蛛先行部隊はかなり上手くオアシス中心部に隠密裏に進行できているのだろう。本隊が出会うのはガシャ髑髏が偽装した貴族軍の警戒部隊ばかりだ。

 音を聞くに西の鴻部隊、南の尾白部隊では既に戦闘が始まっているらしく、盛んに怒号や悲鳴がオアシス外周部で聞こえる。先程真紅の鏑矢も確認されて、どうやら一番槍の手柄は取られてしまったようだ。

 土のレンガでできた家々はが中心部に近づくほど少なくなっている。本隊がいる内周部では人ほどもある巨石を積み上げてできた、土のレンガの家の2倍ほどの大きさの家が所狭しと建っている。道は相変わらず家々の間を縫うようにしてオアシス中心部に続いていた。しかし鼻のいいヴェアヴォルフ族にはオアシスの水の匂いを嗅ぎ分けられるので、迷子になる心配はない。

本隊がオアシス内周に至り、少し進むと前方が騒がしくなってきた。更に進むと騒ぎの中心にいるのが、ゼノビアが指揮する先行部隊であることがわかった。

 ゼノビアは隠密作戦が失敗に終わった時に本隊に合流すべく、先行部隊をオアシス外周部へ下げようとした。しかし、他の隊の戦闘で生じた血の匂いを嗅ぎ、匂いがゼノビア達まで到達するまでの時間が長いことから、自分たちが一番オアシス中心部に近いことを知った。

そこでゼノビアは大胆にも先行部隊単独でオアシス中心部に斬り込むことを決断したのだ。ヴェアヴォルフ族でも精鋭を集めた土蜘蛛部隊から選び抜いた最精鋭の先行部隊なら、本隊合流までの間に進撃路くらいは作り出せると考えたのだ。

 本隊がゼノビアたち先行部隊に近づくに連れ戦闘の様子がはっきりとわかるようになってきた。篝火の周りに集まる貴族軍の警戒部隊をゼノビアたちは次々と血祭りにあげていく。警戒部隊が撤退しないのはオアシス中心部に続く道を先行部隊の何人かが塞いでいるためだ。恐らくあらかじめ何人かの戦士を回り込ませて、奇襲攻撃を仕掛けたのだろう。前後を塞がれた警戒部隊は混乱してまともに指示も飛ばされぬ内に、次々に切り伏せられていった。

 本隊の到着を確認したゼノビアは駆け出す。本隊の先頭を走る形になった。尾白部隊では一旦止まって行われた、先行部隊と本隊の情報交換も精鋭が集まる土蜘蛛部隊では走りながら難なく行われた。土蜘蛛部隊の先頭を走りながらゼノビアは大声で言った。


「もうすぐオアシス中心部だよ!!気合を入れな!!一番槍は他の隊に取られたんだ。何としてもオアシス中心部にこの隊の旗を立てて一番の手柄にするんだよ。わかってるねおまえらっ!!」


オオーという時の声が部隊から帰ってくる。

直後、ゼノビアの言葉通り土蜘蛛部隊はオアシス中心部に入った。

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