75話 強襲1-3

 栄えあるオアシス一番乗りを果たしたのは尾白部隊だった。

槍を手に続々とヴェアヴォルフの戦士たちが、土のレンガで作られた家々の間を疾走していく。

すると前方に篝火が見えた。篝火の周りには貴族軍の鎧を着た兵士たちの姿がある。兵士たちはヴェアヴォルフの戦士たちの姿を認めると、篝火から火のついた薪を取り出すと道の奥へと投げた。それが終わると道の端へと避けていく。

 兵士たちの正体は貴族軍に偽装したガシャ髑髏だ。薪を投げたのはオアシス中心部への続く道を照らし出すためだ。これらの手順は予め突入前に決められていたものだ。逆にいえば篝火から薪を放り投げない兵士は敵であることがわかる。夜明けが近いとはいえ、辺りはまだまだ暗い。その暗い中に投げられた薪はちょうどいい道標となる。

 薪に照らし出されたオアシス中心部へと続く道を戦士たちは我先にと進んでいく。

その中の何人かは道の端に待機しているガシャ髑髏を見つけると背中に背負っている、行李こうりと呼ばれる箱をガシャ髑髏の前に置いて言った。


「先行の任、ご苦労に」


「コノ先に先行部隊がイル。敵ノ警戒部隊も近いハずダ」


「承知。着替えの際の警戒を怠らぬように」


「言わレるまデもなイ。御武運ヲ」


「御武運を」


そう言うと戦士たちはオアシス中心部に向かう一団の中に戻っていく。

 箱の中身はガシャ髑髏用の鎧だ。強襲作戦になった段階でガシャ髑髏が貴族軍の兵士に偽装する意味はない。なにより同士討ちを避けるためにも一刻も早く敵の鎧は脱ぎ捨てた方がいいのだ。箱の中の鎧にはあらかじめ魔法がかけられているので、普段は着るのに一時間はかかる鎧もものの数分で着ることができる。当然鎧を来ている最中は無防備になるので、その時の警戒を怠らぬようにヴェアヴォルフの戦士は言ったのだ。

 戦士たちがガシャ髑髏たちがいた場所から少し進むと、道の真ん中で手をふる一団に出くわした。尾白先行部隊が本隊に合流したのだ。本隊は一旦歩みを止めて先行部隊と簡単な情報交換を行うと再び前進を開始した。

 やがて貴族軍の警戒部隊が篝火の周りにいるのを発見した。かわいそうな彼らはオアシス中心部にいる主力が撤退中であることを知らない。


「見つけたぞ!!」


先頭の兵士が嬉しそうに言うと槍を持ち上げた。それを見た隣の戦士が慌てて言った。


「待て!!投げやりでは一番槍にならん!!自分で相手に突き立てないのでは意味がない」


「くそっ、そうだったな」


投槍をやろうとした戦士は悔しそうに槍を構え直した。

迫りくる戦士たちの一団に恐怖した貴族軍の兵士たちは全力疾走で逃げていく。

それを見た先ほど投槍をしようとした戦士が再び槍を構えた。

先程止めた戦士が、また止めようとする。


「おい、だから投槍は手柄にはならんと‥‥」


「投げるのはやりではない!!」


そういうと戦士は槍の柄の先端を持つと、勢いよく前方の地面に槍を突き立てた。

そして棒高跳びの要領で、槍をバネに一気に前方へ飛んでいく。


「俺が飛ぶのだ!!」


そう言って勢いよく飛ぶと、走る貴族軍の兵士の一人に体当りした。倒れて暴れる兵士の上に、戦士が馬乗りになる。すかさず腰から鎧通しの小刀を抜くと兵士の首に突き立てた。そして首をもぎ取ると勢いよく叫んだ。


「尾白部隊が勇士、ザンヴァルド!!一番槍取ったりいいい」


尾白部隊から一斉に歓声が上がった。それと同時に先頭を走る戦士たちは次々に、貴族軍の兵士たちに向かって投槍を行う。槍が足に絡まったり、あるいは直接刺さったりして兵士たちは次々と転倒する。そこに戦士たちが殺到して、とどめを刺したあと手柄の証として耳や鼻を持って行く。

 一番槍は投槍が禁じられているがそれ以外は、特に何の制限もない。一番槍で投槍を許可するとみんなが投槍をするため一番槍の判定が難しいのだ。

先程一番槍を取ったザンヴァルドはすぐさまヴェアヴォルフ族の戦士に交じるボア族の戦士に話しかける。


祐筆ゆうひつ、しかと記したか?」


「おう、一番槍の功はたしかに見届けたぞ!!」


「よし!!これで失敗も挽回、最初の手柄で一挙両得よ。ガハハハハハ」


 ヴェアヴォルフの戦士たちに随伴する少数のボア族は祐筆の役目を帯びている。

 祐筆は戦果をその目で確認し記す役職だ。これが戦後の論功行賞の時の重要な証拠になる。この証拠を元に戦後の褒美の量が決まるのだ。逆に祐筆がいなかったり、確認できない場合は倒した相手の首を持って帰るのが一番手っ取り早い。名のある武将ならば、あとでそれとわかって褒美がもらえるからだ。

 今回ボア族が祐筆役をやっているのは不正防止のためだ。同族で祐筆役を設けると情やら上下関係やらで、つい戦果を盛ったり逆に削る場合がある。そうしたことを防ぐため、この戦果に何の関係もない第三者のボア族が祐筆役に回っているのだ。


「さあて、そうしたらばみんなに俺の勇姿を知らせんとな」


そう言うとザンヴァルドは鏑矢を取り出すと真紅の布を巻き付け火をつけて、勢いよく天へと向かって放った。特徴的な音がオアシス中に響き渡った。鏑矢に真紅の布、これは一番槍成功の合図だ。暗闇でも見えるように火もつけてある。

 これにより鴻部隊と土蜘蛛部隊にも一番槍を尾白部隊が取ったことが、取られたことが伝わった。

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