74話 強襲1-2


「いったい何が起こっているというのだ!?」


オアシスを占拠した貴族であるピエールは半裸のまま寝所を飛び出すと、部下を呼びつけて怒鳴った。

 ピエールは西方で領地を失い東方のこの地に、新たに領地を得るべく、この度の遠征に参加した。そして遠征前から掴んでいた情報で、宝石と鉱石が有り余るほど取れるというこのオアシスを占拠した。

しかし、季節がかわるたびに砂漠の地形までもがかわるなどという情報は掴んでいなかった。

季節がかわる前にヴォルクス家のウルフシュタットからきた使者が、砂漠の外からきた最後の人間である。

それ以来このオアシスを新たに訪れたものはいない。

 部下からはこの地をよく知る先住民のクロディスの民を、道案内にして砂漠を脱出してはどうかと言う案もでた。しかしピエールはそれを拒否した。クロディスの民の逃亡を恐れたのだ。それに外部と連絡がついて自分の失態が露見するが嫌だった。

 こうしてピエールの軍は指揮官が面子やらプライドやらにこだわるうちに、オアシスから身動きが取れなくなってしまった。いまでは物資や食料も限られて兵士達の不満も日に日に溜まっていく。砂漠で迷子になるのを恐れて逃亡兵が出ないのが唯一の救いだった。


「このオアシスに来るものなどいないはずなのになぜ‥‥」


突然南北西から大勢の怒号が聞こえたかと思うと、松明の明かりに照らし出されてモンスターが一斉にオアシスに突入してくる。ピエールはその怒号で目覚めて寝所を飛び出したのだ。ピエールの寝所は砂漠に似合わない豪勢なテントだ。その周りに混乱した兵士たちが次々に詰めかけて来る。


「モンスターの数は我々を上回っています!!」


「一部に警戒部隊と連絡がとれません!!特に北の方はモンスターの一部がオアシス中央部近くで見られています」


「オアシス外周は既にモンスターがの手に落ちています」


「クロディスの民はいかがしますか?」


「迎撃しますか?各隊と連絡不能です。防衛線はどちらに敷かれますか?」


「間もなく夜明けです。暗いうちに脱出してはいかがですか?」


兵士たちは口々にバラバラなことを言っている。みんなピエールの指示を待っているのだ。

その声にピエール怒鳴り返した。


「うるさい。静かにしろ!!と、とにかく私を守れっ!!私さえ生きていれば貴族である私さえ生きていれば良い。そうすれば家の再興も領地もなんとかなる」


兵士たちは全員唖然として言葉が出なかった。

つまりは兵士である自分たちは見捨てられて貴族であるピエールは助けろという、非常に理不尽な命令だ。ここで兵士の一人がポツリと言った。


「そういえば、東からはモンスターが来てないんじゃないか?」


一気にその場がざわつきだす。


「誰か!!東からモンスターが来たのを見たものはいるか?」


「俺は見てないぞ」


「俺もだ」


「俺も」


「俺はさっきまで東で警戒部隊にいたがモンスターは見てないぞ」


その兵士の一言が最後のひと押しになった。


「東だ!!東に行けばいいんだ!!」


「東にはモンスターがいないぞ!!」


「東に逃げろ!!殺されるぞ!!」


兵士たちは一斉に東に向かって駆け出した。

その様子を見てピエールは半裸で慌てて言った。


「おい、待て!!私が準備するまで待て!!私を護衛するのだ!!」


「うるさい、どけ!!」


兵士たちの何人かはピエールを突き飛ばすと、東へ向かい駆けていった。

こうしてピエール率いる貴族軍は統制も取れず、完全な混乱状態でヴェアヴォルフ族の奇襲を受けることとなった。

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