53話 イノシシと呼ぶな
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ラインハルトは義清に目礼して後ろを振り返った。
ゼノビアが腕組みをしてこちらを見ている。
そしてゼノビアのすぐ後ろにはゼノビアの副官がこちらを睨んでいる。
二人の後ろではヴェアヴォルフ族の戦士たちが息を整えている。
みんな舌をだして暑さを逃して、肩で息をしている。
彼らの息を整えさせて、たとえ戦闘になったとしても満足に戦えるだけの体力を回復させる必要がある。
もしここでラインハルトがウルフシュタットたちへの対応間違えれば、
ゼノビアの副官から長い説教をまた受ける羽目になってしまうだろう。
息を大きく吸い込んでラインハルトは覚悟を決めた。
そうしているとボア族である自分の副官が脇に寄ってきて小声で話しかけてきた。
「ラインハルト様、お早いご帰還でした」
「うむ、村にこいつらが迫っているのを見てな。急いで戻ってきたというわけだ」
「道中お疲れだったでしょう。交渉事はこちらで引き受けますので……」
「いやいや、俺も一族の長だ。
ここは俺も成長するためにも交渉事の1つくらい乗り切らんとな」
「いえ、あの、こちらにも段取りというものがありまして……」
ラインハルトは副官の言うことに構わずウルフシュタットの前に立った。
ヴェアヴォルフ族の体力回復の時間を稼ぐために、説教を回避するために、
ウルフシュタットに話しかけた。
「話は粗方聞いたぞ。侍従神官とやらは置いていくらしいな。
あとはこの土地を明け渡して貰えれば、ここから出ていってもらって構わんぞ」
「その明け渡しについてですが……」
「そんなことは認められんと言っているだろう!!」
ラインハルトがウルフシュタットと話していると、
ダミアンが馬上から大声で怒鳴った。
「ここはラビンス王国の土地だ!!
よそから来た者が勝手にこの土地を奪い取ることは許されん!!」
「兵たちの話によるとお前はこの者の弟らしいな。
兄が話していると横からお前が怒鳴ってきて話が進まないと聞いたぞ。
いいからお前はだまっていろ。俺はお前の兄と話しをする」
「なんだと!!
私をバカにしているな。騎士の名にかけてお前に決闘を申し込む!!」
「おやめなさいダミアン!!
こんな侍従神官や土地など放っておけばいいのです。
命をかける価値などありません。あなたは何を考えているのですか!!」
「兄上、もう止められませんよ。
騎士の決闘とは神聖にして不可侵なもの。
さあ、そこのイノシシよ、いざ尋常に勝負!」
そう言うとダミアンは馬を降りて剣を抜いた。
ラインハルトはダミアンの言葉に激怒した。
額に血管が浮き出て怒りマークが何個もでてきたいる。
ボア族は自分達のことを、知性を持たないイノシシに例えられることを何よりも嫌う。
ダミアンは知らずに虎の尾を踏んでしまったのだ。
ラインハルトは腰につけた、普通の刀よりも長い野太刀を抜きながら怒鳴った。
「いいだろう!!
その決闘、受けて立つ。俺をイノシシと呼んだこと後悔させてやるぞ」
ラインハルトは周りの戦士たちに場所を開けるように言うと、
戦士たちはラインハルトとダミアンから距離をとって、戦いの邪魔にならない距離まで退避していく。
義清とボア族の副官もその場を離れる。
みんなが歩いて退避していく中、副官が小声で義清に話しかけてきた。
「困った事になりましたな」
「まさか、山賊討伐隊がここまで早く帰って来るとは思わなんだ」
「ラインハルト様の件、申し訳ありません」
「おまえが謝ることではない。
ラインハルトもなにか考えがあるのかもしれんしな。
運が悪かっただけだろうが、何か手を考えなければ、話の落とし所を見つけなければな」
種明かしをすると、義清と副官は非常に困った状況にある。
当初、ウルフシュタット一行の村への接近を知った義清たちは作戦を立てた。
まず、ウルフシュタットたちになんとかして無礼な振る舞いをさせる。
できれば手を上げさせて、こちらを傷つけさせるように事を運ぶのだ。
それから傷ついた戦士のせいでこちらの兵が興奮してウルフシュタットたちを
殺そうとする。
それを副官と義清でなんとか押さえたという形をつくるのだ。
兵たちの手前、義清も手ぶらでは押さえられないとして、
ウルフシュタットたちの身の安全と引き換えにこちらの要求を通す段取りとなっていた。
つまりは難癖つけて相手に手を上げさせ、それをネタに相手を脅迫するのだ。
ラインハルトとゼノビアが森から見た、
義清とボア族の戦士たちと副官の話し合いはこの芝居の打ち合わせをやっていたのだ。
当初の計画とは違ったが、侍従神官がムチを打ったことでこの計画は成功するかに思えた。
そこに、予想よりも早くゼノビアとラインハルトが山賊の討伐を終えて戻ってきたのである。
そしてラインハルトがダミアンの決闘を受けてしまったことで計画は完全に予想できない方向に動き出してしまった。
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次回更新予定日 2020/1/31
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