54話 ファイアボール
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ダミアンとラインハルトを中心にボア族とヴェアヴォルフ族の人垣ができあがった。
二人と人垣までは十分な距離があり、どんなに動いて斬って突いても
他の人達には当たることはないだろう。
義清とエカテリーナ、ゼノビアとベアトリス、それにボア族とヴェアヴォルフ族のそれぞれの副官も、人垣の中に一箇所に固まって二人の戦いを見物している。
ダミアンは全身を白い西洋風の甲冑に身を包んでいる。
胸元にはヴォルクス家の家紋である、王冠を着けた蛇が3匹絡まり合っている紋章が刻まれている。
背には白いマントを着けている。
対するラインハルトは鎌倉武士の様な、ゴテゴテとした鎧を着ている。
兜を付け終わってまさに全身を鎧で包み終わったダミアンが剣を抜いた。
剣を天高くかざすと、まっすぐに降ろしてラインハルトに剣先を向けて叫んだ。
「これより私、ダミアンはヴォルクス家と騎士の名にかけて、お前に決闘を挑む!
名を名乗れイノシシよ」
ラインハルトはまだ兜を付け終わっておらず、兜の尾を締めている最中だった。
イノシシと呼ばれたことで再び怒りが湧いてくる。
その怒りで手が震えて兜の尾がうまく結べない。
何度か結ぼうとして失敗して、ついにはキレてしまった。
「ええい、いまいましい、兜なぞ必要ないわっ!!」
そう言うとラインハルトは兜を投げ捨てた。
それを見たダミアンは言う。
「自らの敗北のために兜を捨てるとは潔し!!
苦しませないで逝かせてやろう。さあ、名を名乗れイノシシよ」
「やかましいわ!!
俺はイノシシではない!!
ボア族が長、ラインハルトだ!!
だいたい、先程決闘をするとかぬかしたくせに,
今更名乗り合いなどどうでもいい!!」
「決闘の心得も知らぬ蛮族め。
神聖な騎士道も理解できぬか、いざ尋常に勝負!!」
そう言うとダミアンは剣を上段に構えてラインハルト目指して走り出した。
ラインハルトは一際長い野太刀を抜くと中段に構えた。
額には怒りマークが幾つも浮かび上がっている。
「おのれ!!
一度らなず何度も俺のことをイノシシと呼んだな。
無事にこの場を去れると思うなよ」
そう言ってラインハルトは腰を少し落としてダミアンの攻撃に備えた。
勢いよく走ってきたダミアンは、上段からラインハルトの頭目掛けて剣を振り下ろした。
ラインハルトはダミアンの剣が振り下ろされる直前に、野太刀を下段に下ろす。
そして力強く野太刀を下から上へ、はね上げた。
上から来るダミアンの剣に当たると火花が飛ぶ。
二人は鍔迫り合いをする形になると、ラインハルトが勢いよく地面を蹴って後ろに飛んだ。
それを追ってダミアンが走りまた剣撃を繰り出す。
そしてラインハルトがそれを受け止めて鍔迫り合いになると、また勢いよく後ろに飛ぶ。
それを見ていたゼノビアが口を開いた。
「勝負あったね。ラインハルトの勝ちだ」
その言葉にベアトリスが驚きの声をあげる
「なんでわかるんですか?
まだ、はじまったばかりですよ。
それにラインハルトさんは攻撃を受け止めてしかいませんよ」
「ラインハルトは別に逃げに徹してる訳じゃない。
相手の実力を図ってんのさ。
あの全身白甲冑のバカはさっきから攻撃してるが、技の種類が少ない
別に技が磨かれてるなら少なくてもいいが、ただ打ち込んでるだけで隙だらけだ」
「決闘はどうなるんですか?」
「ラインハルトが勝つのは間違いない。
間違いないけど問題は勝ち方だね。
あの白甲冑騎士はラインハルトをイノシシ呼ばわりしちまったからね。
タダじゃすまないだろうね」
ダミアンはラインハルトの飛び回りにイライラしていた。
数回打ち合ってはラインハルトが後ろに飛んで逃げていく。
いまもまさにラインハルトが後ろに飛ぼうとしている。
ダミアンは剣を持つ右手とは逆の左手をラインハルトめがけてかざす。
「いつまで逃げる気ですか!
それが族長としての戦い方なら、逃げられないようにするまで。
ファイアボール!!」
そう唱えるとダミアンの左手の手のひらに炎の球体が出来上がった。
すぐにそれは人の頭ほどの大きさになるとラインハルトめがけて飛んでいく。
ラインハルトはちょうど地面を蹴って後ろに飛んだ瞬間だった。
空中では飛んでくる火球をかわすことはなできない。
それを見たゼノビアが思わず叫んだ。
「まずいぞラインハルト!」
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次回更新予定日 2020/2/2
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