45話 進まない会話



「寄るなっ!! 近づくんじゃねえっ!!」



ゼノビアがテントに入ると山賊の親分は吠えた。


テントは広い。

王族が寝るような豪華なテントだ。

天井まで高さがあり、楽に立つことができる。

中も広く、ちょっとした部屋とよべるほどの広さがある。

察するに脱走するときに盗んだ荷馬車の中に紛れ込んでいたのだろう。

本来はベットがある位置に、寝床として布や毛皮が何枚か重ねて敷いてある。

その横には木箱があり、上には酒瓶が置いてあった。


そして寝床には村から誘拐された娘たちがいた。

娘たちは裸にされ、布一枚しかまとっていない。

目が虚ろだったり、ひたすら泣いていたりする。

人生で最も酷い一夜を経験したに違いない。


そんな娘たちの1人を山賊の親分は人質にとっている。

娘の後ろに立ち、背後から腕を娘の喉に回している。

その手には短刀が握られており、娘の喉にそれを突き立てていた。




「近寄るんじゃねえ!! この娘がどうなってもいいのか!!」




山賊の親分はゼノビアにむかって怒鳴った。

ゼノビアはそれに答えてやる。




「どうしてほしんだい? アンタの仲間はみんな死ぬか捕らえたよ。

 アンタもいま降伏すれば命までは取りゃしないよ」


「うるせえ!! 捕まってたまるか!! 少しでも近づいてみろ、この小娘の喉を掻っ切るぞ!!」





そのとき、人質の娘が声を上げた。




「あたしごと殺して!!」


「へえ、アンタ、中々に気概があるじゃないか」




ゼノビアが驚きの声をあげると娘はさらに続けた。




「あそこで泣いてるのはみんな友達なの!!

 やめてって叫ぶみんなをこいつは一晩中もてあそんだの!!

 私もされたし……こんな体で私この先どうしたらいいか……

 だからお願い!!私が人質でいるせいでこいつを逃したりしたくないの!!

 私はどうなってもいいからこいつを殺して!!」




時々涙声になりながら、娘は必死に自らの想いを口に出した。

嗚咽も混じるその声には悲しみにくれる友人達の為の復讐心と、

なにより自分にされたひどい仕打ちに対する仇討ちの念がこもっている。



その声を打ち消すように山賊の親分は大声でがなり立てる。




「うるせえ!! お前は黙ってろ!! 殺すぞ!!」


「殺れるもんなら殺ってみなさいよ!!

 私はアンタを道連れにできれば本望だわ。さあ、私ごとコイツを殺して!!」



二人の怒鳴り合いを見ながらゼノビアは少し考えると言った。




「テントから出な。話はそれからだよ」


「うるせえ!! 俺に命令するな!! コイツを殺すぞ!!」


「さっさと殺りなさいよ!! 私を殺ったときがアンタが死ぬときよ」




埒が明かないと首を振ってテントからゼノビアはでた。

そして部下に聞く。




「何人捕らえた?」


「以外に多いですぞ。10人です。みんな矢傷は負っておりますが村まで歩くには支障はないでしょう」


「多すぎるね。縄で繋いで歩かせるのも面倒だね。連中、当然逃げようとするだろうしね」


「これでも歩けそうもないヤツは先に処分したのですが……」


「うーむ、困ったね。早く村に戻りたいのに、人質の娘たちに加えて捕虜10人はちょっと数が多いねえ」




そうこうしていると山賊の親分がテントからでてきた。

当然、腕の中には人質の村娘を抱えている。




「おい、俺を無視するんじゃねえ!! こいつを殺すぞ!!」


「だから早く私を殺しなさいよ!! あんたも道連れよ!!」



ゼノビアはやれやれと頭を振る親分にむかって言う。




「おい、そこの小悪党。逃してやるよ。だだし娘を放すのが条件だよ」


「うるせえ!! 放したところを殺すつもりだろう。そうはいかねえ!! コイツは連れて行く!!」


「お願い!!逃さないで!! 私ごと殺して!!」




話がほとんど進まない事にゼノビアはため息をつくと、部下を呼んで山賊の1人を縛り上げるよう言った。

それから、その山賊を広場の端に目隠しをさせて立たせた。




「いいかい。二人とも、よーく見とくんだよ」




そう言うとゼノビアはスッと手を上げた。


横にいた部下が弓を取り出すと矢をつがえて、数秒狙う。


広場の端に立たされた山賊までは50m以上離れている。

それを矢で狙うなど正気の話ではない。


しかし、引き絞られた弓から放たれた矢は、

まるで最初からそこに飛んでいくのがわかっていたかのように一直線に飛ぶと、山賊の喉元に命中した。

山賊は悲鳴一つあげることなくその場に倒れると絶命した。


ゼノビアが二人の方を振り向いて言う。




「さーて、ここからが問題だ。

 あれだけ離れた人間の喉元を撃ち抜くことができる弓を、

 あんたに向けるとどうなると思う?」




山賊の親分は冷や汗を一筋垂らしたが、虚勢を張る。




「こ、こっちには人質がいるんだぞ。こいつがどうなってもいいのか!!」


「そうさ、そこだよ問題は。

 あれだけ遠くを狙える弓が、この近距離でアンタの眉間を射ち抜くことができないと思うかい?」


「う、射ったらコイツの喉元を掻っ切って……」


「矢が飛んでくるよりも早く切れるってのかい?」


「うっ…………」


「さーて、ラストチャンスだ。いま娘を放したら見逃してやる。」




それを聞いて娘は叫びだす。




「私のことはどうなってもいいから、コイツを殺して!!」


「わかった、わかった。あんたの話はあとでゆっくり聞いてやるよ。

 それで親分さんよ。どうするんだい?正真正銘のラストチャンスだよ」


「ち、ちくしょう!!」




そう叫ぶと親分は腕の中の娘をゼノビアの方に突き飛ばす。

そして全力で森へと走り出した。

その背を見ながら娘が叫ぶ。




「どうして!? 私ごと射ってよかったのに!! どうして殺さないの!?」


「耳元でキンキン言うんじゃないよ。まったく、おい、もういいよ」




ゼノビアがそう言うと横に立つ部下が再び矢を放った。


矢は一直線に飛ぶと、森へと走る親分の肩に深々と刺さった。


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次回更新予定日 2019/12/31

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