44話 襲撃



ゼノビアの角笛の合図と共に山賊の寝蔵へ一斉に矢が放たれた。


ゼノビアの率いる小隊を中央に、寝蔵の左右に小隊を配置している。

山賊の寝蔵を半円状に囲んだ形になる。

寝蔵をぐるりと一周囲まなかったのはお互いの矢の射線を交差させないためだ。


もし寝蔵をきれいに一周、円の様に囲んで矢を放つと、

右手の円にいる者の矢が山賊に当たらなかった場合、

矢がそのまま飛んでいって、左の円にいる者に当たる可能性がある。

つまり味方に矢が当たる可能性があるのだ。


そのためゼノビア達の陣取りも厳密には半円ではなく、

円の3分の1ほどだ。

半円でも円の端の者の矢が、反対にいる味方に当たることがある。


矢の名手を選りすぐって集めた60名だが、念を入れるに越したことはない。



突然の奇襲に山賊たちは狼狽えた。

放たれた矢を防ぐ障害物がない開けた場所だけに、最初の一斉射撃で大半の山賊に矢が突き刺さった。

辛うじて矢から逃れた山賊も、続く第二斉射を逃れることはできなかった。




「いまこそ好機到来!! 討ち入りナ!!」




ゼノビアの命令で森からヴァラヴォルフ族の戦士たちが一斉に刀を抜いて走り出た。


山賊は悲鳴をあげて逃げようとするが、みんな体のどこかに矢が刺さり思うように動けない。


怒号をあげて突き進んでくるヴァラヴォルフ族に恐怖しながら、

山賊たちの大半が武器をかまえることもできずに次々と討ち取られていく。


中には剣を手に取りヴァラヴォルフの戦士と対峙しようとする山賊もいる。

しかし体格差、腕力、武器の長さ、経験、全てがヴァラヴォルフの戦士たちの方が勝っている。

しょせんは脱走兵、訓練もまともに受けていない徴兵されただけの兵士では、

生まれた時から戦士として鍛え上げられたヴァラヴォルフ族の敵ではなかった。


ヴァラヴォルフ族の戦士と対峙できた少数の山賊は矢を体に受けながらも立ち向かったが、

1,2回剣を受け止めることが精一杯だった。

次々と繰り出される剣撃に耐えきれず、腕もすぐに痺れる。

そこを狙ったかのように戦士は下段から強烈な一撃を山賊の剣に当てる。

度重なる強烈な剣撃で痺れた山賊の腕は、その一撃に耐えきれず、

剣は空に飛ばした。

すかさず戦士が山賊の喉めがけて最後の一突きを入れる。

山賊は悲鳴もだすことができずに絶命した。



そんな様子をラインハルトは屈んで森から見ている。

やがて立ち上がろうと腰を浮かせたところで、

後ろに控えていたゼノビアの副官がラインハルトの肩に手をかけてそれを制止する。

副官は咳払いをするとラインハルトに言った。




「いけませんぞ、ラインハルト様。ゼノビア様からきつく言われております。

 先程の馬車での一件で貴方様は手柄を十分に立てられたはず。

 ここは、我らヴァラヴォルフ族が手柄を立てる場。

 貴方様はここで待機していただきますぞ」





苦い顔をしながらラインハルトはそれに答える。





「少しくらいならいいだろう?

 こんな長物の野太刀を持ってきているのだ。

 馬車での一件程度の山賊では少ないぞ。

 そうだ!!

 お前もこんなところにいたのでは手柄を立てる機会を失うぞ!!

 適当なところで俺達も討ち入ろう」


「いけません!!

 あなたをここでお止めするのが私の手柄です。

 そもそも、馬車に乗るとわかっているのに、

 その様な長物を持ってくるとは何をお考えなのですか!!

 武器はその場その場に応じたものを選ぶのが鉄則。

 そのために、日頃から鍛錬を積んで

 幅広い武器に精通していることこそ戦士としての努め」




ラインハルトはヴァラヴォルフ族の戦士たちによって次々と討ち取られていく山賊を見ながら、

ゼノビアのところの副官は説教くさいやつだったことを思い出した。

山賊の寝蔵では怒号と悲鳴が入り乱れている。

ヴァラヴォルフ族の戦士が斬りつけたことで山賊から溢れ出た血が、

ラインハルトには太陽に照らされて妙に輝いて見えた。




「聞いているのですか、ラインハルト様!!

 だいたいあなたは一族を背負う立場にありながら時々、

 軽々しく行動しすぎですぞ!!

 族長たるもの、

 時には部下をたてて、手柄を立てさせるくらいの事はやらなければなりません」




ラインハルトはゼノビアの副官の説教を聞きながら




(襲撃に参加できないなら、せめて早く終わらせてくれ。

 この説教は放っておくと、一体いつまで続くかわからん)



と、うんざりしていた。



少数の山賊は傷を負いながらもテントを抜けて馬車の方へ、

奇襲攻撃が行われた方向とは反対の方向へ逃れることに成功した。

しかし、森に入ったところを待ち構えていたヴァラヴォルフの戦士たちに討ち取られた。



戦闘は数分で終わり奇襲攻撃は見事成功に終わった。


あとは先程悲鳴が上がったテントに残る山賊の親分だけだ。


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次回更新予定日 2019/12/29

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