37話 ギルド


「おい、あんた、そのへんにしときな。明らかに怪しいんだよ」


「なにがだい?」



ゼノビアに問いかけられた、護衛のボス格と見られる短刀の男は

ゼノビアの方を向いて言った。




「アンタ明らかに怪しいんだよ。

 自分の身は守れる、報酬はいらない、どうしても付いて行きたい。

 どう見たって胡散臭いんだよ。理由を言う気がないんなら、さっさと消えな」




ゼノビアが腰に指しているファルシオンに手をかける。


それを見た男は慌てたが、少し考えて話しはじめた。




「仕方ないな。俺達はとあるギルドに所属してるんだ。

 旦那方が討伐予定の山賊の中にギルドメンバーがいるらしいんでな。

 討伐対象になってるってわかった以上、ほっとくわけにゃいかないのさ」


「まだ、アタシ達に隠してる事があるだろう。わかるんだよ。

 アンタ達は自分の命に関して敏感だから後ろの5人も含めて、何か匂うのさ」


「わかった、わかったよ!! 腰の武器を抜くのはナシだ。洗いざらい話すよ」




ゼノビアが腰のファルシオンを男に見えるようにわざと少し抜いたことで

男は観念したらしく話しはじめた。



男の名はユライという。

話にでたギルドとは盗賊ギルドのことだ。



 盗賊や人殺しなら誰でも入れるというわけではなく、

かなりの金額を納めないとギルドの会員にはなれない。

もしくは20年近くの下働きの後に正式な会員として迎え入れられる。

たいていは後者だ。



ギルドは主に安全と情報、そして意外なことに保安を提供している。



 安全は隠れ家の提供。

賄賂などを使っての仲間が指名手配されそうな時のもみ消し。

捕まった仲間の釈放交渉。時には最終手段として役人を暗殺することもある。



 情報はその人物にとっての危険地域、すなわち指名手配されそうな地区などの情報。

都市間、都市内の警備隊の巡回路。ギルドメンバーを逮捕する計画の察知。



 保安では都市の住民が対象になることが多い。

住人から少額づつ金を納めてもらう。

その地区をギルドメンバーがパトロールするのだ。

都市の警備隊はほとんどの場合あてにならず、数も少ない。

そこで彼らの出番とうわけだ。


昼夜を問わず通りや地区を見回る。

乞食をからかったら、その乞食にいきなり路地裏に連れ込まれてボコボコにされる事がある。

乞食の正体は盗賊ギルドの腕っぷしだ。

彼らは通りにあからさまなにソレとわかる様に立って警備していることもあれば、

その場に溶け込んで何食わぬ顔で通りを見張ることもある。



 酒場で見知らぬ客が大声でわめきながら店主から金をせびろうとしている時に、

いきなりドアが開いて男が連れ去られたら、間違いなく彼らの仕業だ。

その男は運がいいと翌日、路地裏で半死半生で発見される。

運が悪いと豚小屋で豚に食われて一生を終える。


以前は水路に浮かんでいる姿を発見されるとこもあったが、

住民から、金を払っているのに死体を水路に捨てて生活を脅かすのか。

病気の元をつくるな、という苦情が来たので豚小屋にしたそうだ。




 そしてギルドは、ギルドに入っていない者の情報を容赦なく警備隊に売る。

あまりに大きな盗みや略奪を行う時はギルドに一時上納金を納めなければ、

いつ捕まってもおかしくないのだ。



 軍と行動を共にすることもある。

敵国の都市の経済状態、住民の領主に対する不満、警備状況。

これらの情報を役人に売ることでギルドは非合法ではあるが半ば公然と存在するのだ。



 あまり多くはないが十、二十年に一度は政府に依頼されて

政府内の要人、あるいは敵国の要人を暗殺することもある。


 政府からギルドそして暗殺者へと、末端へワンクッション挟むとことで、

暗殺者が捕まっても依頼主がわからないようにするのが目的だ。

もちろん、暗殺者が捕まれば救出にいく。

この場合賄賂は効きにくいので、

暗殺者を助けるために別の暗殺者を送って救出するという、非常に面倒な事になるのだという。

このへんがフリーランスの暗殺者と政府お抱えの暗殺者の違いだと、

男は得意げに説明した。



 ここで当然の疑問が出てくる。

山賊になるような者がなぜギルドメンバーになれたのかということである。

その金はどこらか調達したのか。



結果から言うと運と母親の賢さだ。



 件の山賊になった男は義清の予想通り、脱走兵だった。

彼は今回の東方侵略の出征直前に、賭けで大穴を当てて大金を得たのだ。

そしてベロンベロンに酔っ払って大金を手に家に帰る。

母親に賭けの話と大金を自慢してイビキをかいて床に入る。



すると母親は盗賊ギルドに駆け込んだ。



母親は東方に行く息子に少しでも助けになるようにと、

息子をギルドに加盟させたのだ。



 軍の中にもギルドメンバーはおり、お互いに助け合う。

時には外部から情報をもらい自軍が不利とわかるやいなや、脱走を手引することもある。

そうした助けを期待して母親は、むこう3年分の金を払って息子をギルド会員にした。



翌朝金が消えたのを知って息子が激怒したのは言うまでもない。




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