35話 運の無さ
「さーて、どうしたもんかなあ‥‥」
ラインハルトが腕を頭の後ろで組んで歩きながら、横にいるゼノビアへ聞いた。
ゼノビアもそうだね~と言いながら腕を組んで歩いている。
二人は昨夜寝起きした村の前の広場を、テントの間を抜けながら歩いている。
ラインハルトがうなりながら言った。
「うーむ。山賊退治など簡単な仕事の1つだが、奴らの寝蔵がわからんのではなあ」
「アタシらが道を歩いてるだけじゃ山賊は出てきてくれないだろうしね。
逆に遠のいちゃうかもね」
「人数に物を言わせた山狩りが一番簡単確実な方法だろうが、時間がかかりすぎるな」
「アタシらヴェアヴォルフの索敵方もここらの地理には不案内だ。
山賊の寝蔵を見つけるのは運が絡んでくるね。1日やそこらじゃ終わらないかもしれないよ」
「今朝あったヴァジムとかいうクロディスの民を助けに北の砂漠に行くのだ。
山賊狩りにそうそう時間を取られるわけにもいかんぞ。
さーて、どうしたもんかなあ‥‥」
悩む二人は広場を抜けて村の前まできた。
村の入口に目を向けたラインハルトが叫んだ
「そうだ、閃いたぞ!! ゼノビア」
ゼノビアがどうしたんだい?と聞く間もなくラインハルトは村の入り口へ進んでいく。
ラインハルトの行く方向には義清に刺されて体内に蟲を飼うことになった、
あの商人がいる。
立場上村の中に居づらいのか、商人と護衛は馬車を従えて村の入口で夜を明かしたようだ。
ゼノビアはズンズンと進んでいくラインハルトと戸惑う商人を見てポツリと言った
「なんだが知らないが、あの商人もよっぽど運が無いらしいね」
そういうとゼノビアはラインハルトに追いつくべく駆け出した。
商人は近づいてくるラインハルトを見て焦った。
ラインハルトは笑みを携えながら商人にズンズンと迫ってくる。
その笑みはどこか影を含んでいる。
商人は逃げ出したいのを必死に堪えながらラインハルトに言った。
「な、なにか御用でしょうか?」
ラインハルトは商人の近くまで来ると商人の肩に腕を回して
まるで昔からの旧友のようにして話しはじめた。
「いっよぉ、商人!! 元気にしてるか?
昨日は災難だったな。まあ、人生何事も経験だ。ながい人生何が起こるかわからん。
そうだろう?」
「そ、そうですね。何事も経験。い、いい勉強になりました」
商人は笑顔をつくってラインハルトに応対しているが、
その笑顔は明らかに引きつっている。
そんな商人にラインハルトは笑顔で言う。
商人は笑顔に含まれる影が更に濃くなった気がした。
「そうか、そうか。いい勉強いなったか。それはよかった。
では、勉強ついでに俺たちと山賊狩りにいこう」
「‥‥は?」
商人は意味がわからないと目を点にしてラインハルトを見た。
そんな商人にラインハルトは畳み掛ける。
「いやあ、俺達は村長に頼まれて誘拐された村の娘の救出と山賊退治を
これからやろうとしているところだ」
「そ、そのような事に私のような商人風情がお役に立てるとは思えませんが‥‥」
「いやいや、役立つも何もお前が主役だ!!
俺達が道を歩いて行くだけでは山賊は出てきてくれん。
そこに、お前という商人が護衛も連れず馬車で道を行けば、
奴ら格好の標的が来たと出てくるだろう。つまりお前さんは囮だ。重要な任だぞ」
どうして何の関係もない商人である自分が、わざわざ命の危険を犯してまで
そんなことをしなければならないのか。
しかも、囮などという危険極まりない役回りを、まるでおつかいに行くように
事も無げに言うこのボア族の神経がわからない。
商人はあまりに傍若無人な要求に理解が追いつかず混乱した。
目を白黒させるさせる商人の肩にあるラインハルトの手に力が入る。
ラインハルトの笑顔は完全に暗い影をまとっている。
そして肩にある手に力を込めながらラインハルトが言う。
「まさか、この役目、イヤとは言わんよな?」
そう言われて商人は全てを悟った。
これは命令なのだ。
要求などという生易しいものではない。
断る権利など自分にはないのだ。
「よ、喜んで囮の役回り、やらせていただきます」
商人の護衛はそのやり取りを遠巻きに見ながら
仲間内で目を合わせてなにやら困った顔をしていた。
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