34話 行動準備
「そして今にいたると言うわけだな?」
義清が少しシュンとして落ち込んでいるヴァジムに言う。
ヴァジムはそうだと答えた。
「どうして北の帝国とやらに行かなかった?
鉱石の売り買いで交流があるのだろう。向かうなら北でもよかったのではないか?」
「北の商人はたまにズルをする。信用できない時がある。人にもよるがな。
人間の軍隊を相手に本気で助けてくれるか怪しいので、
話に聞いたことがあったこの大森林に来たのだ。モンスターも暮らしていると聞いた。」
そういうとヴァジムは深々と頭を下げて義清に言った。
「たのむ!! 俺たちクロディスの民を助けてくれ。 お礼なら何でもする!!
どうか、なにとぞ、なにとぞ、お願いだ!!」
それを見ながら義清は
(なるほど、体の構造上、足をある程度までしか曲げれんのか。
これはワシらでいう土下座に近い恰好なのだろうが、
足が短いせいで完全に足を内側に曲げるとバランスを崩すのか)
などと、ヴァジムの話とは全く関係ないことを考えていた。
それというのも義清の心はもう決まっている。
勢力拡大の為にもヴァジムたちクロディスの民を助けるのは決定事項なのだ。
あとは、どう助けて何を見返りにもらうかが肝心なところである。
義清が咳払いしてしていった。
「仮にいお前達を助けたとしよう。ワシらに何をしてくれる。ワシらは何か得をするのか」
「それは‥‥うーん‥‥その‥‥そうだ!!鉱石だ!!
鉱石を北の帝国ではなくこちらに優先的に送ろう!!」
「残念だがワシらは銀鉱山を持っておるし、別の鉱石も近々大規模に発掘予定だ。
お前達の言う鉱石が何なのかはわからんが、それだけでは少ないな」
「ぐ‥‥‥銀がでるのか、あとは砂漠の案内くらいしか俺たちにはできねえ。
しかし、そんなもの何の足しにもなりゃしねえだろうし、‥‥クソッ!!」
ヴァジムは悪態ずくと拳を地面に叩きつけた。
義清はそれを見ながら少しヴァジムのことを哀れに思った。
ヴァジムたちクロディスの民の運命はまさに義清の手のひらの上にある。
最初から助けると決まっているものを、こういう風に焦らして相手を窮地に陥らせる。
自分がこういう風にならないためにも力を持たねばならないと、
義清はあらためて強く思った。
そしてこういう風に相手を自分の手のひらの上で転がすことに
嫌気が差す自分に安心した。
(権力者が陥りやすい常だ。自分に力があり、
相手の方が弱いとつい相手をいじめたくなる。
相手はそれでも権力者にすがりつくしかない状況なので、
靴でも舐めん勢いで媚びへつらってくる
権力者はその自分が圧倒的優位にある状況に恍惚としがちだ。
相手の気持ちを考えることも、
そんな自分が周りからどれほど憎しみを買っているかも、
まるで気づこうとしない。
そうはなってはならん!!)
義清は再び咳払いすると言った。
「まあまあ、落ち着け。
鉱石だけでは足りないだけでワシらも助けがいらない訳じゃない。
ワシらはこれからラビンス王国と戦うつもりだ。
それに参加してもらえるとありがたい。
そして同時にこちらの傘下に入り、
砂漠一帯での防衛の任にも当たってもらいたい。
そうだ、もしワシらの傘下となれば毎年の宴の警護はワシらが受け持とう。
ワシらはオアシスに入らないから神聖な地に武器を持って入ることもない。
もちろん、そちらが再び窮地に陥ればこちらも最大限の助力をしよう。
どうだ、悪い取引ではないと思うが」
「あ、ありがてえ。
こちらに願ってもねえ条件だ。ラビンス王国は俺たちにとっちゃ、
憎んでも憎みきれねえクソみないな国だ。
それと戦うのは何の依存もねえ。
砂漠での防衛も今までと同じ様に暮らすのとかわらねえからな。お、恩に着るぜ。」
「さて、そうと決まれば早速出発の準備と行くか」
「お、お待ち下さいっ!!」
涙を浮かべて感謝するヴァジムの横から村長が叫んだ。
全員がそちらを見ると村長は困った顔で言った。
「大声を上げて申し訳ありません。しかし、こちらも火急の要件でして。
義清様からの申し出を村で話し合いましたが、問題が持ち上がりまして‥‥」
義清が村長を見て言う。
「なに、気にするな。ワシらの民になるかもしれない人の困り事は
ワシらの困りごとだ。遠慮せず言ってくれ」
義清の言葉に村長は少し落ち着きを取り戻して話しはじめた。
義清たちとスケルトンの一連の出来事があった日に
数人の娘が行方不明になっているというのだ。
娘たちは畑仕事をする者の為に水を汲みに、
近くの小川へ言って行方がわからないのだという。
娘たちが消えたことに気づいた直後にスケルトンが来襲したので
当初は娘たちはスケルトンに殺されたと思われていた。
しかしスケルトンは村人を誰も傷つけていないという。
事の次第がわかってくると村から数人の娘が消えているとこがわかり、
親たちは半狂乱になって村長に訴えでた。
「そこで、義清様たちに娘たちの行方を探してもらいたいのです。
村の中には山賊にさらわれたのではないかと言うもの者もいます。私もそう思います」
村長が一気に喋って息をきっているところにヴァジムが水を差し出した。
細かな気配りができると義清が思いながら言った。
「山賊がでるのか?」
「はい、最近になってからです。普段ならこちらも武装しておりますから
山賊などそれほど怖い存在ではありませんが、
最近になって税を納めるための作物を燃やすと脅されております。
村から物資、食料を納めろというのが奴らの言い分です」
「十中八九、山賊に間違いなかろう。こんな辺境で山賊をしても実入りは少ない。
大方、撤退からあぶれたラビンス王国の脱走兵あたりだろうな、よし」
義清が一同を見回していった。
「手分けしよう。ゼノビア、ラインハルトは山賊を片付けよ。
娘たちはは無傷で取り返すように努めよ。
山賊は証人として4,5人生きたまま捕らえよ。他は好きにして構わん」
『御意』
ラインハルトとゼノビアが返事をして座を立った。
「ワシらは撤退と砂漠行きの準備だ。村には警護を残す。
山賊狩りが終わり次第、村を離れるぞ」
義清がエカテリーナとベアトリスに言った。
それぞれが行動を開始した。
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