32話 砂漠とクロディスの民と歯磨き
「砂漠!? この大森林の北に砂漠があるのか?」
義清がヴァジムの説明に驚きの声をあげた。
「そうだ。この大森林に比べれば小さいかもしれねーが、
オアシスが10も入る中々の大きさの砂漠だ。そこにいるクロディスの民を助けてもらいてえ」
ヴァジムが尻尾を震わせて言う。
時刻は朝。
昨夜、義清たちが集まった焚き火の周りに二人の人物が加わって話している。
1人は村長だ。
そして村長がおっかなびっくりチラチラと横目で見ている隣のモンスターがヴァジムである。
ヴァジムの体はここに集まる誰よりも大きかった。2メートルを有に超えているだろう。
口の上下から何本も飛び出ている歯。ゴツゴツした皮膚。体の三分の一を占める長い尻尾。
足と腕は太く、下手をすれば小柄な少女ならばその後ろに立つと隠せてしまそうなほどだ
胴体は腕や足とは比べ物にならないほど太く大きい。
胴体の長さに対して足が少し短い。
そして何より目をひくのが顔から水平に飛び出した大きな口。
巨大なワニが2本足で立つ姿がそこにはあった。
「まあ、座れ。もうすぐ朝飯ができる。それを食いながら話そう。村長もどうだ?」
義清に勧められて村長が座るとヴァジムがその横に腰を下ろした。
巨体がドシリと勢いよく座ったため村長の尻が勝手に宙に浮いた。
それに気づいたヴァジムが、すまねえと村長に言った。
体は大きく粗野に見えるが意外と周りにも気がいくようだ
干し肉とパンとスープという簡単な朝飯が運ばれてきた。
ヴァジムは久しぶりの肉だと言い美味しそうに干し肉を引きちぎりながら食べている。
義清もスープ口をつけるとゆっくりと飲み込むと言った。
「北に砂漠がありそこにお前達クロディスの民と呼ばれる、
お前と同じ様なモンスターがいると?」
義清が合図して部下に干し肉を追加で持ってこさせた。
それをヴァジムにやる。
「そうだ。その北には人間のなんとか言う帝国がある。
俺たちは鉱石をその帝国からたまに来る商人に売ったり、砂漠を道案内して
案内料を貰ったりしてる。この肉はうまいな。 気に入った!!」
「それはよかった。ところで鉱石が出るのか? 砂漠に鉱山があるのは珍しいな」
「鉱山はない。砂の河があって、そこからシュレンゲ達に取ってこさせるんだ」
「砂の河? シュレンゲ?」
義清が質問しながら更に追加の肉をヴァジムに与えた。
ヴァジムは礼を言って勢いよく干し肉を引きちぎると義清の質問に答えた。
「砂が河みたいに流れているのだ。俺たちやシュレンゲは楽に渡れるが
人間は難しいだろうな。浅瀬を探すしかない」
「ふむ。流砂の様なものかな。それが砂漠を河の様に流れていると。シュレンゲは?」
「シュレンゲは俺たちが乗る生き物だ。でかいトカゲを思い浮かべて
そいつにタテガミとエリマキがついたのを想像するといい。
尻尾まで含めると俺たちクロディスよりも余裕で大きいぞ。俺たちは生まれた時から
1人に1頭与えられてそいつと暮らすんだ。ここに俺のはここに来る途中ではぐれちまった」
「あまり心配しているように見えんが?」
「あいつらは鉱石を食べるんだ。腹から吐き出せるから上物は俺たちで売るが、
クズはあいつらが食べる。砂漠ではぐれたからな、食べ物には困らないはずだ。
人間の兵隊に見つかっていないかかだけが心配だ。
砂漠に戻れば俺の匂いを嗅ぎ取って合流できるはずだ」
食事を終えるとヴァジムは腰の短刀を抜いた。
全員が驚いて見ているとヴァジムはそれを口に持っていくと歯に当てはじめた。
ヴァジム曰く肉を食べたあとはこうしないと歯が腐る事があるのだろ言う。
腐っても時間がたてば歯は生えて来るが、肉で歯を腐らせるのは
大人のすることではないという。
そういった風習がクロディスの民にはあるのだろう。
歯の一本一本に器用に歯を当ててわずかに付いた肉の欠片を落としていく。
その様子を見ながら義清は、
なんだかおかしな奴だが憎めない奴だと心の中で笑った。
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