31話 今後の方針

義清がカップを置くと枝で焚き火をイジりながら言った。



「少し前は生き延びて、みんなでこうして酒が飲めるとは夢にも思わなんだ」


「色々たいへんでしたが、何とかなるもんですね」




エカテリーナが胸に手をあてて目を閉じながら言った。




「その色々に一役買っているがな」




ラインハルトがボソリといった言葉をエカテリーナは聞き逃さず、

キッとラインハルトをにらんだ。

ラインハルト慌てて視線をエカテリーナからそらした。



そのやり取りを見ていたゼノビアはクスクスと笑いながら見ていた。

やがてラインハルトに助け船を出してやろうと

話題を変える意味もあって義清に訪ねた。





「義清様、これからいかがなさるおつもりですか?」




義清はカップに酒を満たすと一気に飲み干して答えた。




「悪党になろうと思う」


『悪党!?』




全員が驚いて、思わず声を上げて義清の言葉を復唱した。

義清はその反応が面白くてハハハハッと笑うと言葉を続けた。



「悪党はいい。

 全てを力で解決できる。自分より弱き者たちは仕方ないと諦めて、

 ワシらにしたがう。

 強きものも、ある程度の力がなければ悪党に構おうとしない。

 ワシらはこれより悪党となってラビンス王国を切り取ろう思う。

 手始めにこの周辺の人間を全て奪う。ワシらの民にして税を取るのだ」


「でも、それだとラビンス王国が怒りだすんじゃないですか?」




ベアトリスが持ってきたパンを口に含みながらいった。




「怒るだろうな。大義名分は‥‥そうだな、『困っている人を助けて何が悪い。

 統治もまともにできないラビッシュ王国から人々を救っただけだ』

 とか何とか言えばよかろう。

 いざとなったらワシら悪党よ。自分のしたい様にして何が悪いと行ってやればよい」


「随分と乱暴な言い分ですが、要するに自分達のしたい様にして従うものには

 施し、歯向かうものは殺すと」




ラインハルトが義清の酒をカップに注ぎながらいった。




「悪党と名乗ることで相手に難癖つけても悪党だから仕方がないと呆れられ

 逆にこの地の人間たちには今よりいい生活条件をだしてこちらに取り込むと。

 しかし、それではラビッシュ‥‥ラビンス王国が兵をこちらにむけてきますよ?」




エカテリーナが袖からカップをだしてゼノビアの酒をカップに過ぎながらいった。




「ラビンス王国はこちらに攻めてくるだろうな。

 そこで、城の完成を急ごうと思う。工事を行う人手はこの地の人間を使う。

 村長曰く、この地にはこの村と同じ様な今年の冬も越せないような村が

 たくさんあるそうだ。全てワシらのものにすれば城の完成も早いはずだ」


「敵の兵力がどの程度なのでしょうな」




ゼノビアが短い間に3杯目の酒を都合としているエカテリーナから

自分の酒を奪い返しながら義清に聞いた。




「村長はラビンス王国の兵士たちの撤退がある日突然はじまったと言っていた。

 その前の様子も聞いたが、どうも補給が行き届いてなかったようだ。

 村に武器が残されていたのも、

 運ぶ手間を惜しんだのではなく、運びたくても運べなかったのが真実のようだ。

 そして、撤退してからそれほど月日はたっていないらしい。

 恐らくこちらに攻めてくるとすれば、この軍団が引き返して来ることになるだろう」


「慣れない土地でモンスターを追い出しながら村まで築くというのに

 なんともお粗末な軍団ですな」




ラインハルトが腰にある布袋から、干し肉を取り出して焚き火であぶりながらいった。




「村長はラビンス王国の王をひどい無能だと言っていた。

 そんな無能のことだ、間違いなくいま帰国中の軍団を再度反転させて

 この地を攻めるように言うだろう。

 まあ、この辺りは1人の情報だけで判断するのは危険なので、

 他の村からも情報を集めようと思う」


「ここより東の地には行かないんですか? 

 あくまで西のラビンス王国だけを狙うのですか?」




ベアトリスがラインハルトが枝に刺して炙っていた何本かの干し肉を

勝手に引き抜いてパンに挟みながら聞いた。




「ここより東の地がどうなっているのか情報がない以上、

 西のラビンス王国に集中する。

 東に行って勢力を拡大しても民がいないのでは、

 税も取れないので治めても意味がないからな。

 東の地がどうなっているのわかってくれば話は別だがな」


「兵力の集中は戦の基本ですからね。

 いたずらに東西南北に兵を配置してもしょうがありませんものね」




エカテリーナがいつの間にかゼノビアから酒を奪って自分のカップに注ぎながら言った。




「そうそう、忘れるところであった。

 大主教を助けるついでに何匹かのモンスターを開放したが、

 あやつらも何事か、ワシらに助けてほしい事があるそうだ。

 村長と大主教たちとのやり取りのあとで、日も暮れてきていたので明日に回した」


「勢力拡大として助けるのですか? 助けたあとはこちらの配下にすると?」




ゼノビアがいつの間にか奪われた自分の酒を、エカテリーナからひったくり

ながら言った。

ゼノビアはエカテリーナが座る位置と反対の方に酒を置いた。




「そのとおりだ。できればモンスターだけで軍を構成したい。

 人間は予備か後方部隊においた方がいいだろう。

 この世界も元いた世界と同じ様に、

 モンスターが種族の垣根を超えて共闘することは

 あまり多くないそうだ。せいぜい生物的に近い2種族で生活するくらいだそうだ」


「じゃあ、目標は前の世界と変わらないんですか?」



ベアトリスがラインハルトの焼いている干し肉を再び勝手に取ろうとしながら聞いた。

ベアトリスが取る直前にラインハルトが干し肉を取り上げた。

おもわずベアトリスは頬を膨らませる。

ラインハルトはこれは俺が焼いたものだと言うと

ニヤニヤしながら美味そうに干し肉を食べてベアトリスに見せびらかした。



「そうだ前と同じだ。モンスターの国家をつくる。

 あちらでは失敗した。こちらでは上手くやらねばならんな。

 複数の種族を統合して人間の国と互角に渡り合える国をこの地に築く。

 モンスターの地位向上だ。また1つ大義名分ができたな。

 そうだな‥‥モンスターは人間と同じような生物だが少し違う。

 人間の亜種として亜人とでも名乗るか。

 悪党らしく我々の存在を認めない人間側に問題があると難癖つけることとしよう」


「大義名分は大事ですからね。人間も一枚岩ではないでしょうから

 自分の利益の為にアタシら味方しようとする者も中には現れるでしょう。」



ゼノビアが自分の酒をカップにつきながら言った。

エカテリーナがそれを羨ましいに見ながら咳払いをして言った。




「まとめると、

 まず、この村と同じ様な村から人々をラビンス王国から我が国へ移住させる。

 それと並行して周辺のモンスターを吸収して勢力を拡大。

 そして、引き返してくるであろうラビンス王国の元東方侵略軍を撃破する。

 これでよろしかったでしょうか?」


「そんなところだな。恐らくラビンス王国の軍を撃破した時点で他の国も

 我が国を脅威とみなすだろう。

 次に来る軍はファナシム聖光国が一枚かんでくるかもしれん。

 どちらか言えばこちらの戦のほうが我々にとっては正念場だ。

 ラビンス王国の元東方侵略軍は前哨戦にすぎないだろう」



義清は焚き火をいじっていた枝を炎へ投げ入れると、

仲間の顔を順に見回しながら言った。



「みんな、働きに期待しておる。そして全幅の信頼を置いておるぞ。

 何かあったら迷わず自分の命を優先する行動をとれ。

 これから出会う者も、

 あの村の者も含めて、あやつらの事など知ったことではない。

 当面は我ら異界より来たる者の命を優先する。

 必要なら他は切り捨てても構わん」




全員が義清を見つめてコクリとう頷いた。


ラインハルトがカップから酒を喉に流し込む。大きく酒臭い息を吐いて言った。




「前の世界では暴れ損ねた。

 今度は違う。ラビンスだかラビッシュだか知らんが叩き潰してやる」




ゼノビアも同じ様に酒を流し込むと言った。




「次は籠城戦だ。ここぞというチャンスをつかんで敵を一気に仕留めなきゃね」




エカテリーナがゼノビアの脇にあった酒を魔法でヒョイと浮かべる。

そしてゼノビアの背後をフワフワと飛ばしながら自分の手元に持ってきた。

先程もこうしていつの間にかゼノビアから酒を奪っていたのだろう。

エカテリーナもコクコクと喉を鳴らして酒を飲んで言う。




「民の統治と魔法にかけてはお任せを。

 ラビンス王国との戦の際も上手く民をまとめてみせますわ」




ベアトリスは酒に夢中になって油断しているラインハルトの干し肉を奪うと

美味しそうに食べた。

ラインハルトは取られた事に気づいてベアトリスを睨んだが、

ベアトリスは勝ち誇ったように食べる姿を見せつけた。

干し肉を食べ終わってからベアトリス言う。




「私の古代魔法の解読がどうなるのか、そもそもこの世界にも資料があるのかも

 わかりませんが、また解読してみせます!!

 そして次こそ、その功績でお腹の子供を芽吹かせてみせますよ!!」




この言葉にエカテリーナが敏感に反応して恨めしそうにベアトリスを睨んだが

ベアトリスは気にすることなく手に持った干し肉を美味しそうに食べた。



みんなの顔を義清は愛おしそうに見回す。


やがて再び夜空を見上げて言った。




「月はないが、綺麗な夜空だ」

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