9話 転移の代償


「ゼノビア、ゼノビア!!」




れるような頭の痛みに思わず頭を抑えながらラインハルトの声でゼノビアは目を覚ました。




「聞こえてるよ。そう怒鳴らないでくれ。」


「馬鹿者!!起きるな、足を高くしろ。誰か布を持ってこい、急げ」




ゼノビアが不思議に思いながら自分の下半身に目をやると

あるべき二本の足は無くドス黒い血が流れ出ていた。




「うえ‥‥?あ‥‥が、なんで‥‥‥そんなああああぁぁぁぁ」




状況が理解できず痛みに悶えながらゼノビアはラインハルトに掴まりながら悲鳴をあげた。




「転移の影響か知らんが、そこら中で同じようなことが起こっとる」




ラインハルトの言葉で初めて周りを見回したゼノビアは、あたり一面が血の海となり

傷ついている仲間や自分と同じく四肢が欠損している者たちが溢れかえっていることに気づいた。




自分はもう自力で歩くことも立つこともできないのか。


どうやってあの方のお仕えすればいい。


どうやってあの方のお役に立てというのだ。


ゼノビアは苦楽を共にし仕えたいと心の底から思う義清のことを思い浮かべて大粒の涙を流した。




「いやだ、いやだ。アタシにはまだやるべきことがある」




涙を流して上半身を起こしたゼノビアの前に、倒れた何本かの矢筒と

その矢筒から溢れた矢に埋まる自らの足があった。




弾かれたように自分の足を触ると矢筒が載っていたせいか少し痺れはあるが

いつものように動くグレーの毛皮に覆われた綺麗な足があった。



周りを見回すと先程の血の惨劇はなかった。

周りには弓に矢筒や敵の火矢を消すための水桶、槍刀斧、包帯に担架などの物資、そして自らの種族と

ラインハルトらボア族が横たわっていた。




ほとんどの者たちは横たわっているが何人かの仲間たちは起き上がろうとしており

意識をはっきりさせるためか頭を降っている者もいる。




「夢だった?」




先程の血の惨劇は失った意識を取り戻そうとした際の単なる悪い夢だったのだろう。

足がなかったのは、矢筒と矢のせいで痺れた足を夢の中で変に意識してしまったせいかもしれない。




「ゼノビア、やめろゼノビア、俺は」




夢の中で自分を呼んでいたラインハルトは横でうなされながら

まだ意識を失っている。




 ゼノビアが揺り動かしてやるとラインハルトも弾けたように起き上がった。

そしてゼノビア方を見ると恐怖の色を浮かべながら叫んだ。




「やめろゼノビア、俺は腕が一本ないくらい平気だ、まだ戦える。首は落とさんでいい」

「なにを言ってるのよ。お前の腕はちゃんとあるじゃないか。しっかりおし。」




 慌てて体中を手ではたき、意識を失う前の戦いでの傷はあるものの

自らの四肢が無事なこと確認するとラインハルトは安堵のため息をついた。




「夢でよかった。俺は戦で腕をなくし、そんな体ではボア族の長も務まらんし

 義清様の御役にも立てんとお前から介錯をされる夢をみたんだ」




いや本当に夢でよかったとラインハルトはもう一度安堵のため息を漏らしながら呟いた。




「運が悪かったね。お前は意識を失っている間にに自分の腕を、自分の体で轢いてたからね。

 そのせいで夢の中で変に腕のことを意識しちまったのさ」


「そうか、そうかもしれんな。しかし、よくすぐにそんな事がわかったな」


「ま、まあね、経験則と言うやつだね」




ゼノビアは苦笑しながら先程までの自分の夢を思い出しながら答えた。




「皆ようやった。成功だ。」



義清がエカテリーナとベアトリスを伴って本丸から出てきて言った。

二人の戦士は満面の笑みでそれを迎えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る