第6話
私は臨床心理士として働いている。持てる者も持たざる者も、等しく心くじけることがある。それに寄り添うことこそ、私の使命である。
今日もまた、心の痛みに胸を引き裂かれんばかりの子羊が私の前に現れた。
今日私の目の前に座るのは、若く、力強く、涼しげな目元と高い鼻梁を備えた美男子である。
「今日はどうされましたか?」
私は煙のようにたゆたう声で問うた。
「実は、女性関係で悩んでいるのです。自分で言うのも何ですが、僕はモテます。男女問わずです。」
「なかなかに大変ですね。」
(女性関係だけではないではないか。)
「ですが、僕が本当に好きなのは、たった一人の女の子だったんです。それなのに、肝心の彼女にはフラれてしまった。僕が見境なしにモテるのが信用ならないと言って。」
「それは、さぞ悲しいことでしょう。」
(あなたの無念は分からないでもない。が、彼女の危機感の方が現実的だ。)
「いつもこうなんです。僕が好きになる子は僕を好いてくれないのに、どうでもいいような子がたくさん僕の周りに寄ってくるのです。」
「苦しいですね。」
(なんと傲慢な。他者に対して、どうでもいい、とはいただけない。)
「僕はこのまま、どうでもいい人にはモテるのに、誰とも結婚できないのではないか、と思うと滅入ってしまって…」
「矛盾した状況が苦しいのですね。」
(こちらこそ、どうでもよくなってきた。)
「先生、よく見るとあなたも素敵な方ですね。僕の失恋の傷を癒してもらえませんか。」
「もちろんです。私はあなたが元気な心を取り戻すお手伝いをするために、ここにいるのですから。」
(あなたは、もう幾度かフラれるべきであろうな。)
私は感情の無い笑みを浮かべて見せた。
今日も仕事は順調だ。
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