第4話

 私は臨床心理士として働いている。病める人の心の支えとなることが私の使命である。


 今日もまた、抱えきれないほどの心の重荷に悩む子羊が私の前に現れた。


 私の目の前に座っているのは、身体の見事な曲線美を存分に表出している若い女性だ。その強烈な肉体美のため、異性愛の男であれば彼女の顔だちは全く認識できないだろう。



「今日はどうされましたか?」

 私は相手の目を見て言葉を掛けた。



「仕事場でストレスが大きくて、色々と不調が出て困っているのです。今も仕事帰りなのですが、明日も仕事だと思うと本当に憂鬱で。」

「そうですか、それはどうしてでしょうか?」

(その服装であなたは仕事に行っているのか。度量の広い会社だな。)



「上司からのセクハラがひどいんです。」

「それはいけませんね。」

(自然の成り行きと言えよう。)



「人事部に相談したところ、その上司に掛け合ってくれたのですが、全然効果が無くって。」

「お辛いことでしょう。」

(あなたの訴えに対応して上司を諫めたのか。大した人事部ではないか。)



「服装がいけない、と忠告してくれる友人もいるのです。でも、ファッションは私の存在の一部です。自分を殺してまで、地味な服装をしたくはありません。」

「そうですね。」

(地味な衣服を身に着けたところで死にはすまいが。)



「私は負けたくありません。だから、ずっと頑張ってこのファッションを貫くつもりなんです。でも、セクハラが辛くって。」

「そうですか、板挟みで苦しいのですね。」

(今の服装も興味深いが、私は地味な衣服のあなたを見てみたい。)



私は穏やかに微笑んだ。

今日もまた、良い仕事になりそうだ。

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