第4話
私は臨床心理士として働いている。病める人の心の支えとなることが私の使命である。
今日もまた、抱えきれないほどの心の重荷に悩む子羊が私の前に現れた。
私の目の前に座っているのは、身体の見事な曲線美を存分に表出している若い女性だ。その強烈な肉体美のため、異性愛の男であれば彼女の顔だちは全く認識できないだろう。
「今日はどうされましたか?」
私は相手の目を見て言葉を掛けた。
「仕事場でストレスが大きくて、色々と不調が出て困っているのです。今も仕事帰りなのですが、明日も仕事だと思うと本当に憂鬱で。」
「そうですか、それはどうしてでしょうか?」
(その服装であなたは仕事に行っているのか。度量の広い会社だな。)
「上司からのセクハラがひどいんです。」
「それはいけませんね。」
(自然の成り行きと言えよう。)
「人事部に相談したところ、その上司に掛け合ってくれたのですが、全然効果が無くって。」
「お辛いことでしょう。」
(あなたの訴えに対応して上司を諫めたのか。大した人事部ではないか。)
「服装がいけない、と忠告してくれる友人もいるのです。でも、ファッションは私の存在の一部です。自分を殺してまで、地味な服装をしたくはありません。」
「そうですね。」
(地味な衣服を身に着けたところで死にはすまいが。)
「私は負けたくありません。だから、ずっと頑張ってこのファッションを貫くつもりなんです。でも、セクハラが辛くって。」
「そうですか、板挟みで苦しいのですね。」
(今の服装も興味深いが、私は地味な衣服のあなたを見てみたい。)
私は穏やかに微笑んだ。
今日もまた、良い仕事になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます