第2話

 私は臨床心理士。他者の心に寄り添い、その傷を癒す手伝いをするのが生業である。


 今日もまた、心を閉ざした子羊が私の目の前に現れた。


「今日はどうされましたか?」

「…」

(黙っていては、わからないではないか。)



「言葉が出ないほど、心が苦しいのですね。」

「…」

(話す気が無いのならば、何のために私の前にやってきたのだ。)



「大丈夫です、焦る必要はありません。ここでは黙っていても良いのですよ。」

「…」

(良くはない。帰るか、話すか、してもらおうか。)



 私はゆるゆると時が流れるのを待った。



「どうですか、少しは心が楽になりましたか?」

「…」

(黙り込むことが快感だというのだろうか?)



「…」

「…」

(ならば、私も試すまでだ。)



 私は微笑み、言葉を絶った。なるほど。沈黙も悪くない。

 今日もまた、良い仕事ができたようだ。

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