今日はどうされましたか?(どうもこうもないだろうな)

菊姫 新政

第1話

 私は臨床心理士として職を得た。来る日も来る日も、病める人々の心の叫びに耳を傾ける。それが今の私の仕事だ。


 見よ、今日もまた、悩める子羊が私の前に訪れた。


「今日はどうされましたか?」

私は努めて特徴の無い声を発する。


 私の目の前にいるのは、まだ中年一歩手前というところの女性だ。一目見れば忘れない、凄まじい形相である。美醜を超えた、鬼気迫る迫力が生まれながらにして備わっている。


「はい…実は、夫との関係がうまくゆかなくて、ずっと心に重荷を抱えているようなのです。」

「そうですか。」

(あなたのような顔でも、結婚ができるのだな。)



「流産してからというもの、ぎくしゃくしてしまって。」

「それはお辛かったでしょう。」

(ほう。あなたの夫は、子どもを作ろうとさえしたのか。素晴らしい男ではないか。)



「また頑張って、子どもを産みたいと私は思うのですが、夫は私を気遣うあまり、かえって避けるようになってしまったんです。」

「お優しいご主人ですね。」

(単に恐れたのではないのか、あなたに似た子どもの誕生を。)



「私は夫のことを愛しているのです。このまま離れたくはありません。私は子どもを望むべきではないのでしょうか。」

「答えを性急に求めてはいけません。大丈夫です。私と一緒にゆっくり考えていきましょう。」

(私としては、あなたの子どもの顔が見たい)



 私は彼女に対して微笑んで見せた。

 今日も、仕事はうまくゆきそうだ。

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