矛盾の紐解き

「そうだ。かつての社会上の処女性の喪失は、婚礼という儀式により起きると考えるべきだ。

 未婚と既婚で――特に女性が――髪型、装飾、化粧を変えるという文化は世に五万とある。その文脈上では、婚礼を済ませる事で、娘は女になる……時に、残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキが、うらみ・うらみを抱くとされるのはどういう意識からだと思うかね」

「己の不幸と他者の幸運を呪っているわけではないという事はわかったわ。でなければ、そんな質問、貴方しないでしょう? 勿体つけないで」


仕方がない、と言いたげながらも、彼女は優しい目で彼を見上げている。


残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキは、前置きした通り、事故や事件などで若くして、又は自殺、或いは幼くして亡くなった、恨みや憾みを抱いて然るべきと考えられる者達だ。ルサールカも条件はあるものの、この残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキに含まれる存在だ。

 しかし、ルサールカについての伝承を見た限り、ルサールカが供養される事と、豊穣を齎す事は分けて考えられるべきである。何故なら、彼女等は陸地で踊っただけで、その場に豊穣をもたらす存在であるからだ。其処に供養をするという条件は含まれない。実りを枯らすとされる残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキに含まれると言うのに、だ」

残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキはルサールカと等式にはなるけれど、ルサールカは残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキとは等式にならない……ということ?」

「そうなるな。では、残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキとルサールカの相違点と共通点は何か。

 共通点は、若くして、或いは幼くして死んだ者である事だ。

 では、相違点が何かと考えれば、ルサールカは女性と子供に限定される。残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキについては若者と子供と言われる。この区分について考えれば自ずと何故かはわかろうよ」


ああ、と彼女はすぐに声をあげて、どこか皮肉げに微笑んだ。

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