乙女の葬式

既に人家の密集した地帯は抜け、一面畑となっているような場所だ。


「それらの際には、先ほど話した娘達の作った花輪、あるいは娘達自身、時には藁で作った人形が依代として使われている節がある。

 そしてそれらは、ルサールカの導きプロバディ・ルサロクルサールカの追放イズグナーニェ・ルサールキルサールカの見送りボジュディーニェ・ルサールキルサールカの葬式ポホロニ・ルサールキなどと呼ばれる。導きと言っても、こちらが導く側ではあるから、『道引き』とした方がよいやもしれんな。

 これは露西亜ロシアに限らず、烏克蘭ウクライナなどにも見られる」

「見送り、葬式……道引きと言っても、ひつぎひきでなくて?」

「いや、そうではないと思う。何故なら、この儀式は実際に主となる儀式が行われる場所までの移動を含むからだ。

 そして主となる儀式の場についたルサールカの依代は燃されるか、解体して撒かれるか、水に流されるか、だ。例えば、とある地域では人形に白衣を着せ、『ルサールカを葬ろう』と言って、ライ麦畑まで葬列の模倣を行い、人形を解体する。

 別の地域ではルサールカの人形と踊った後に人形を壊して、畑に撒く。

 また別の地域では、参加する娘達は皆、自身の分の花輪と共に、巨大な花輪を協力して作る。そしてルサールカ役に選ばれた娘は全身に花や葉をまとい、花輪と共にライ麦畑まで移動する。その後、ルサールカ役の娘以外の娘や子供たちはライ麦畑の中を逃げ回るルサールカ役の娘から、その身につけられた花や葉をはぎ取って畑に撒く」


それを聞いた彼女は、すぐさま視線を目の前のライ麦畑に向けた。

しばし固い表情でライ麦畑を見た彼女は、ふっと力を抜いて、声を出さないままに唇を動かす。

なるほど、と。


ようやく、話が見えたわ」

「そうだろう。その為に彼処から此処迄歩いたのだからな。どちらにせよ、ルサールカは再び死ぬわけだ」

「それが、この有様というわけね」


彼女は何の変哲もないライ麦畑を見つめながらそう言う。

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