うらみと弔い

御霊ごりょうのような事かしら? 通常として、その年で死ぬとは考えられない、己の死を受け入れられぬ死者、という事でしょう?

 日本でも、そういう死者に対して、花寄せや七座降ななくらおろしという特殊な口寄せの風習のある土地もあるものね」


ううむ、と唸るように彼は答えた。

そこには、否定と迄はいかないまでも、肯定の色は乗っていない。


「半分は正解だ。残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキは、その悔い故に不浄とされる。露西亜ロシアに於ける吸血鬼の一種とされるウプイリ、それとセットで扱われる事もあるベレグィニャも、共にこの残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキにあたると言う。

 また、埋葬されない死者は、折角実った穀物が枯れる事態を引き起こすとの伝承がある。その悔いや、不当に扱われるが故に生者に報復をすると考えられたわけだ。これを鎮める為にはちゃんと埋葬してやる必要がある。ところが、大地はこの残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキという不浄を嫌い、いくら埋めてもその内に受け入れずに地上に吐き出す。その為、死体は腐敗せず、夜な夜な墓から出ては彷徨い歩く。

 そして、大地の怒りはこれに留まらず、寒い春、或いは寒の戻りでいたばかりの穀物の芽を枯らしてしまう――実際には後者の理由故に、不慮の若い死者を葬ることができずに、残置という手段を取るが故の、残置された死者ザロジュヌィエ・ポコイニキなわけだが」

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