神に見える天の数

「まず、この祭りは基督キリスト教、東方教会の聖霊降臨祭トロイツァ――西方教会で言うところの五旬節ペンテコステである祭りだ。故に基督キリスト教以前の匂いを帯びている。或いは、五旬節ペンテコステと同時期とされるユダヤ教の収穫感謝祭シャブオットの影響も考えられうるといえば考えられるな。移動祭日である復活大祭パスハ――西方教会でいう復活祭イースターの五十日後とされるため、当然聖霊降臨祭トロイツァも移動祭日だが、もしやすると、この祭り自体はかつて固定だったやもしれん。

 そして呼び名は余りに多岐に渡る。儀式自体も地域によって多岐に渡る故、当然だな。緑のスヴャートキズィロニ・スヴャートキルサリアの週ルサルナヤ・ニジェラ、まあ一般的にはセミークと言えば通じるだろう。復活大祭パスハから七週目の週の木曜日がこのセミークにあたるが、東方教会では四月初旬から五月初旬に行われる復活大祭パスハの七週後だから、大体五月後半から六月半ば辺りまでがセミークに当たり得る。故に、セミークは露西亜ロシア語のスェーミに由来するとも言う、娘が主役の祭りだ」

「あら、七!」


大股で歩く彼に対し、ちょこちょこと早足でありながらも滑るように歩く彼女が愉快そうに声をあげる。


「七五三、七草、七不思議、七つまでは神のうち、七人ミサキ、七福神、七剣星ひちけんぼし、ふふ、いざなぎ流の呪詛すそなんて、天竺七段国に七つの石、七つの墓、七つの卒塔婆に七つの錠鍵、挙句には七つの地獄だわ」

「七は一桁最大の素数だ。三に次いで、人間の根底意識にある数字と考えてもいいかもしれん。狼と七匹の子山羊、七人のこびと、七羽の烏、七大天使に七つの大罪、七つの天国……まあ、まず枚挙に暇がなかろうよ。

 さて、このセミークは俯瞰すれば、豊穣と春夏の祭だ。野に出かけ、無礼講とばかりに娘らや若者らが歌い踊り、時に番う。実に古式ゆかしい春夏の祭だ」

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