客人《まれびと》二人

* * * * *


こんな田舎では観光客というものは珍しい。

まして、その片割れはどこか外国の映画で観たような――嗚呼そうだ、日本ヤポーニャだ、日本のヤポンスキー――、それも少しザラついた古いフィルム上に映っていたように思う、伝統的な衣装を身に着けている若い娘だ。

いくら生まれてこの方、碌にこの地方から出た事のない彼女でも、昨今の日本ヤポーニャでそのような衣装を普段から着る者など多くはないという事は知っていた。

また、共にいる男は――十中八九、娘の父親アチェツ、そうでなくともおじデャデャだろう――洋装ではあるものの、なんとも古めかしく、烏賊墨の色セーピアを思い出す。

だからといって、二人とも着られているとか、ダサいとかいうわけではなく、格式の重さとでも言うような、少し重厚な品を伴っている。

なんとも不思議な客だ。

娘の方は、切り揃えられた綺麗な黒髪を揺らしながら、物珍しそうに店内をちょこまかと歩いては置いてある品々をじっと見ている。

男の方は、しばし何かを探すようにきょろきょろとしながら、店内を歩き回っていたが、やがて目当ての物を手にこちらに来た。

ウォッカだ。

瓶を受け取って、そこではたと、この異国の人間に言葉が通じるか不安に思う。


「あー、時に、だな」


その不安は取り越し苦労だった。

男は若干の辿々しさを含みながらも、付け焼き刃にしてはやけに流暢に口を開いた。


「一昨日辺りまで、祭りだったようだが、あれはなんだったんだい?」

「え? ああ、セミークだよ。ルサリアの週ルサルナヤ・ニジェラさ」


ほう、と男はそれまでどこか淀んでいた目を見開き、興味深げに輝かせた。


「無理に聞くつもりはないが、どういうものか教えて頂けるとありがたい」


物好きな客だ。とはいえ、他に客も来なければ、此方もヒマである。


「別段隠すこともないけどね。ルサリアの週ルサルナヤ・ニジェラってのはね――」

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