乙女殺し
板久咲絢芽
誰そ彼のライ麦畑
白夜の太陽に照らされた生い茂るライ麦の畑の真ん中に、ソレはぽつんと突き立っていた。
青白くすらりと長い、傷一つない女の右腕。
天に向けて伸びた腕の先に付いた手は、手首から先はごく自然に重力に従って、招くように関節で曲がり、そのすらりと長く優美な指先には、今にも落ちそうな雫が宿っている。
よくよく見れば、畑の其処彼処に、その腕の主のものだろう身体が散っていた。
左腕が、
凄惨と形容して違いないだろうその光景には、然して陰惨とした空気は一切なく、霧のかかる鬱蒼とした森に踏み込んだような、しんと冷たく澄んだ、いっそ、清々しいとさえ言える空気が辺り一体を支配していた。
それは、其処に一切の血の痕跡がないからだろう。
風を受けて花穂を揺らすライ麦にも、そのライ麦の根付く黒々とした地にも、赤の色彩は一点もなく、静謐に澄み渡った大気にも鉄を帯びた匂いは一欠片もない。
ただ不審な点があるとするならば、その指先や髪のように、彼女は――彼女の部品は、雨に降られたかの様に――或いは魔女と判別するために川に漬けられたかの様に――、全てがしとどに水に濡れて、真夜中の薄暗がりの、あれは誰と尋ねるのもやむを得ない程度の光を、きらきらきらきらと反射していた。
ライ麦畑に広がる暗澹とした幻想を纏う、その景色を作る彼女は、やがて瞬き一つの内に、全て――
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