第7話 サラの決断

「さ、降りるよ」

「えっ?」


 サラが戸惑うのも無理はありません。魔法のホウキの着陸地点は、サラが目覚めたあの霊園だったからです。無事に辿り着いたところで、2人はホウキから降ります。

 レイラがマントの中にホウキをしまっている間、サラは何故ここに戻ってきたのか分からずにキョロキョロと周りを見渡すのでした。


「ねぇレイラ、どうしてここに?」

「ここがあなたの戻る場所だからよ」

「私、ここ嫌! 暗くて狭くて臭いもの!」


 サラは霊園をすごく嫌がります。それはそうでしょう、いくらゾンビになったサラにとって一番馴染みの深い場所とは言っても、お墓の中はとても陰気な場所ですものね。

 ワガママを言うサラを見て、レイラはしゃがみこんでサラの頭を優しくなでます。


「サラ、あなたがこの場所を嫌がるのは分かるわ。ここは淋しい場所だもんね」

「じゃあ別の場所に行こうよ。ここ以外なら……」

「ダメ、ここじゃないといけないの」


 今まで散々ワガママを聞いてくれたレイラですが、今度は話を聞いてくれません。サラは何か様子が違うと感じ取って何も喋れなくなりました。

 少し怖がっている風なサラをまた優しくなでながら、レイラは真面目な顔でサラを見つめます。


「あなたが目覚めたのはハロウィンの奇跡。だから、もうすぐ終わるの」

「私、また死んじゃうの?」

「そう、ごめんね。私の力が足りなかったから……」


 レイラはサラに向かって静かに頭を下げました。その無念そうな雰囲気にサラはかける言葉を探すものの、まだ幼いせいもあってうまく言葉が出てきません。

 けれど、何とか自分の気持ちを伝えようと頑張ります。


「えっと、じゃあ……レイラとはもう……お別れなの? 私、嫌だよ!」


 自分の気持ちを伝え終わった後、サラは最後のワガママとばかりにぎゅうっとレイラに抱きつきました。レイラもその気持ちに答えて優しくサラを抱きしめます。

 2人はしばらくの間抱き合っていたものの、日付が変わる雰囲気を敏感に感じ取ったレイラは優しくサラを自分の体から離しました。そうして、レイラはサラの顔をまっすぐに見つめます。


「もうすぐハロウィンが終わるから、そろそろ準備をしないと……」

「ねぇどうしてもダメなの? 一緒にはいられないの?」

「それは……」


 サラの必死の訴えに、レイラは困惑します。そうして、改めて可能性を考え始めました。サラがこのまま再度の死を迎えずにずっと自分と一緒にいられる方法を――。

 最初こそ、そんな夢みたいな方法はないと思い込んでいたものの、考えを巡らせている内にあるひとつの可能性を閃きます。


「……ひとつだけ、方法があるかも」

「本当?」


 その希望の一言に、サラの目は輝きました。


「もし私と一緒に魔女の国に行くなら、ずっといられるかも。魔女の国はこの世界と理が違うからね。どうする?」

「当然行くよ!」


 即決でした。サラは鼻息荒く、レイラの提案を受け入れたのです。安易に決断してしまったサラを見てレイラは忠告しました。


「いいの? 一度魔女以外の者が魔女の国に行ったら、この世界にはハロウィンの日にしか戻れないのよ?」

「それって、今と一緒だよ。ならサラと一緒の方がいい!」


 言われてみれば確かにそうです。それに、このまま大人しく眠りについたとして、次のハロウィンにもちゃんと目覚められるかは分かりません。今年目覚めたのだって、どうして目覚められたのかその理由すら分かっていないのです。

 サラの主張に納得したレイラは、マントからまたホウキを取り出しました。


「分かった。それじゃあ行こうか。乗って」

「うん」


 2人がまたがったところでホウキはふわりと飛び上がります。今度の目的地は魔女の住む、魔女しかいない魔力に満ち溢れた魔女の故郷、魔女の国。

 ホウキは加速度的にスピードを上げて、この世界ではない不思議の国へと旅立って行ったのでした。

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