第6話 ハロウィンを堪能するゾンビちゃん
こうして、2人は街で開催されていた楽しくて賑やかなハロウィンの催し物に参加します。屋台でお菓子を買ったり、ステージでダンスを踊ったり。
サラは服こそ可愛らしいものに変わったものの、顔はゾンビのままだったので、そのギャップが審査員からの高評価を得ていました。本当は本物ですが、見事すぎる仮装だと思われていたのです。
サラもこの流れに任せて、そのように振る舞いました。
こうして、楽しい時間は穏やかに流れていきます。
「どう、楽しい?」
「うん、レイラも楽しんでる?」
「勿論、だってサラと一緒なんだもの」
2人がハロウィンパーティをエンジョイしていると、子供達のお約束の言葉が聞こえてきました。お菓子をくれなきゃ――ってやつです。
サラも精神的にはまだ小さな女の子だったので、当然この遊びにも興味を持ちました。それで、繋いでいたレイラの手を可愛らしく引っ張ります。
「私もアレやっていいのかなぁ?」
「勿論。存分にハロウィンを楽しんでおいで」
こうして保護者のお許しも得て、サラは子供達の中に走っていきました。今度は子供達にも警戒されず、サラはゾンビのコスプレと言う体でみんなで仲良く周りの大人達にお菓子をねだります。
子供達の中にはゾンビのコスプレしている子もそれなりにいて、サラはゾンビメイクのコツなどを聞かれまくりました。そんな方法なんて全然知らないサラは、矢継ぎ早の質問を笑顔でごまかしたりしたりして。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」
「するぞーっ!」
ハロウィンを思いっきり楽しんでいるサラの姿を見て、レイラは本当に嬉しそうに目を細めます。楽しい時間はあっと言う間に過ぎていきました。
やがて、大人相手にお菓子を巻き上げていた子供達も1人、また1人と親に迎えられてそれぞれの家に帰っていきます。気が付くと、サラはまた1人に戻ってしまっていました。
その頃合いを見計らって、レイラが迎えに現れます。
「楽しかった?」
「うん、とっても!」
サラはレイラに向かって満面の笑みを浮かべました。その様子からすごく楽しかった事を読み取ったレイラも、また微笑み返します。
その頃にはすっかり夜も更けていて、淋しい雰囲気が繁華街を包み込み始めていました。周りにいるのは興奮している大人達ばかりで、もうサラと同年代の子供達はどこにも見当たりません。
レイラは少しつまらなさそうな顔をしているサラの顔を、少し悲しそうな表情でじっと見つめました。
「もう戻らなくちゃね」
「え……っ?」
サラはその言葉がすぐには理解出来ません。サラはゾンビです。お墓の中から蘇りました。死んでからかなりの時間が経っていますし、生前に住んでいた家はもうありません。当時の家族ももうとっくにいないのです。帰る場所なんて全く見当がつかないのも当然でした。
サラが困っていると、レイラはマントの中から魔法のホウキを取り出します。レイラは当たり前のようにホウキにまたがると、サラに向かって手を伸ばしました。
「さ、乗って」
「う、うん……」
サラはこの展開に少し戸惑いながらも、レイラの後ろにまたがります。2人がちゃんとまたがれたところで、ふわりとホウキが浮かびました。初めての浮遊体験にサラはびっくりします。
「うわっ……」
「しっかり掴まっててね」
「うん」
サラはぎゅうっとレイラにしがみつきました。その可愛らしい感触を背中に感じながら、レイラはホウキに魔力を込めます。次の瞬間、2人は本格的に空に浮かびました。
ぐーんと上昇しながら前進し始め、サラは目を回します。
「あわわわわわ……」
「じゃ、行くよっ!」
レイラはホウキに流す魔力を調整してスピードを上げました。ホウキはぐんぐんとスピードを上げて、周りの景色がものすごい早さで流れていきます。
最初こそこの状況についていけなかったサラですが、しばらくこの状態に身を任せている内に段々とスピードにも慣れて楽しくなってきました。
「すごいすごーい!」
「ちゃんと掴まっていてね」
「うん」
サラが空の散歩に慣れて楽しくなった頃、ホウキは徐々に高度を下げていきます。やがてスピードも落ちてきて、目的地が近付いてきた事を匂わせます。
もうすぐ降りるのかなとサラが地上の様子を確認すると、そこは見慣れた場所だったのでした。
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