第5話 何もかも思い出したゾンビちゃん
「お姉さんは私を蘇らせようとしたの?」
「うん。でもね、うまく行かなかったの」
女の子を亡くしてしまって凄くショックを受けたお姉さんはその時、強く決心します。どうやってでも女の子を蘇らせようと。
そうしてお姉さんは死者蘇生の魔法を色んな文献で調べ、その手の知識を持っている先輩魔女に教えを請い、実験を繰り返して実力を身に付け本番に臨みます。
しっかり自分の力に自信を持てたお姉さんは、その足で女の子の眠るお墓に向かいました。ついに魔法を実行する日がやってきたのです。お姉さんは女の子のお墓の前に立つと、自分の持てる力の全てを使って死者蘇生の魔法をかけました。
けれど、どれだけお姉さんが魔法をかけても、魔力を尽くしても、女の子はそのままずうっと目覚める事はなかったのです。
「きっとまだ何かが足りなかったのね」
「え、でも私、今ここに……」
「うん、それについては後で話すわ」
お姉さんはそう言うと、昔話を再開させます。女の子を蘇らせる事に失敗したお姉さんは、この街を離れてそのまま各地を転々としました。自分の無力を悟り、嘆き、自暴自棄になった事もあったのだそうです。
それから様々な体験を経て、少しずつ心の傷も癒えていきました。
「それでね、やっとこの街に戻って来れたの」
「大変だったんだ……」
「ふふ、ありがと。だけど、あなたにこうして会えたんだもの。長い遠回りだったのかもね」
お姉さんはゾンビちゃんに向かって微笑みかけます。こうして全ての話を聞き終えたゾンビちゃんは、涙をポロポロとこぼし始めました。
何故自分が泣いてしまったのか分からず、ゾンビちゃんは困惑します。
「あれ? 何で泣いちゃうんだろう……何で悲しいんだろう」
「きっと扉が開きかけているのね。大丈夫、あなたは何もおかしくないわ」
お姉さんはそう言うと、また優しくゾンビちゃんの頭をなでました。ゾンビちゃんの涙はまだ止まりません。必死に涙を手で拭いながら、ゾンビちゃんはお姉さんの顔を見上げます。
「涙が止まらないよぉ……」
「それはね、あなたの心が昔を思い出しているの」
「でも私、何も覚えてない」
お姉さんの言う涙の理由に、ゾンビちゃんは納得出来ませんでした。勝手に出る涙に折り合いをつけられないでいる様子を見たお姉さんは、ゾンビちゃんの頭を優しくなでます。
「じゃあ、一番大事な事を教えてあげる。あなたの名前はサラよ」
「サラ……?」
お姉さんに教えてもらった名前を自分で口にした瞬間でした。ゾンビちゃん、いえ、サラは忘れていた記憶を一気に思い出します。それは物で詰まった押し入れの戸が一気に開いたみたいに、圧倒的な圧力でサラの心を満たしていきました。
あまりに突然の出来事だったので立っていられなくなって、サラは頭を抱えてしゃがみ込みます。
「どう? 思い出せた?」
記憶が開放された様子を目にしたお姉さんは、心配そうに覗き込みました。しばらくの間、サラはまぶたを閉じてその記憶と向き合っていましたが、やがて大体の事を受け入れてゆっくりとまぶたを上げます。
その無垢な瞳に映ったのは、自分を助けるために奔走してくれた優しい魔女の姿。
「レイラ、有難う」
「良かった。無事に思い出せたのね」
そう、サラはお姉さんの名前を思い出せたのです。つまり、あの話は全て真実だったのでした。
何もかも思い出せたサラは目の前の魔女、レイラに思いっきり抱きつきます。
「レイラ、会いたかった!」
「私もよ、サラ」
レイラとサラは力強く抱き合います。この時、2人はお互いに涙を流していました。ひとしきり抱き合って涙を流し終わると、2人は一旦離れます。
そうして、レイラは少しいたずらっぽい表情を浮かべながら、サラを見つめました。
「そんな服じゃダメね。任せて」
レイラはマントの中から杖を取り出して、リズミカルに振り始めます。その杖の先から発生した光の粒子が、サラの体を包み込みました。この一連の動作を、サラはただなすがままに受け入れています。レイラの事を全面的に信頼しているからです。
魔法をかけられた事で、古く傷んだサラの服は見る見る内に最新の可愛いガーリーな服に変わっていきました。
「どうかしら? 流行りの服は嫌い?」
「ううん、そんな事ない! サラ、有難う」
「どういたしまして」
可愛い服になったサラは性格も落ち着いたと言う事で、暴れていた頃とはもはや別人です。なので、もう周りの誰も怯えてはいませんでした。
こうして準備も全て整ったと言う事で、レイラは改めてサラの顔を覗き込みます。
「じゃあ、ハロウィンを楽しもっか」
「うん!」
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