第4話 魔女のお姉さんの語るゾンビちゃんの秘密

 お姉さんから逃げ出せたゾンビちゃんは、それでも懸命に走り続けました。自分の右腕がなくなっている事にもまだ気付いていません。それだけ頭の中が真っ白だったのです。

 走りながら自分が普通じゃない事に気付いてしまい、悲しくもなっていたのでした。


 一方のお姉さんはと言うと、ちぎれた腕を地面においてマントの中から魔法の杖を取り出します。そうして、呪文を唱えながらステッキを振りました。

 まるでオーケストラの指揮者のように、リズムよく振られるステッキ。その軌道に合わせて光が伸びていきます。その様子から、どうやら本物の魔法を使っているみたいでした。


 やがて、地面に置かれたゾンビちゃんの腕を中心に光の円が描かれ、後に鮮やかな魔法陣が形成されていきます。それが完成すると、お姉さんは満足そうな表情を浮かべました。


「これでよし」


 次の瞬間、完成した魔法陣はすぐに効力を発揮します。まばゆい光が魔法陣から円筒状に上空に向かって伸びていきました。その光はすぐに消えます。

 光が消えると、そこには逃げ切ったはずのゾンビちゃんが。どうやら魔法陣によって召喚されたようです。召喚されたと同時に、ちぎれた右腕も無事元に戻りました。

 この予想外の展開に、ゾンビちゃんは驚いた表情を浮かべながら顔を左右に振ります。


「えっ? 何? 嘘?」

「お帰り、いいんだよ、今日は」


 困惑しているゾンビちゃんを優しい表情で見守りながら、お姉さんは微笑みました。まだしっかり状況の把握出来ていないゾンビちゃんは、ポカ~ンと口を開けてお姉さんを見つめ返します。

 お姉さんは杖をマントの中にしまい、そうしてキョトンとしているゾンビちゃんの顔をじいっと見つめました。


「ハロウィンはね、死者がこの世界に戻ってくる日なんだ」


 その一言で、ゾンビちゃんは気付いてしまいます。


「私、死んじゃった?」

「そう、そうして生き返ったの」


 何故お姉さんがそんな事を知っているのでしょう。お姉さんは、自分が人間じゃない事にショックを受けるゾンビちゃんの頭を優しくなでます。


「大丈夫、安心して。私がいるから」

「お姉さん……」

「実はね、あなたをそんな風にしちゃったの、私なんだ」

「えっ……」


 お姉さんの突然に告白にゾンビちゃんは目を丸くします。なんと、このお姉さんこそがゾンビちゃんをゾンビにした張本人だったのです。道理でゾンビちゃんを怖がらない訳ですよね。

 お姉さんは、動揺するゾンビちゃんに事の経緯を話し始めました。


「それじゃあ、ちょっと昔話をしようか……」


 ゾンビちゃんがゾンビなように、お姉さんもただの魔女コスプレの人じゃなくて魔法を使える本物の魔女でした。そうして、ゾンビちゃんがゾンビになる前、普通の女の子だった頃からの知り合いなのだとも言います。


「昔、私がこの街に住んでいた頃、とても仲の良かった近所の女の子がいたの」

「それが私?」

「そう、あなたはその頃からとても可愛くて、魔女の私を慕ってくれていたわ」


 お姉さんが昔この街にいた頃は魔女に対する偏見がひどく、信頼出来る人以外には素性を隠していました。その中でも女の子はとてもお姉さんを気に入っていて、いつもべったりだったのだそうです。


 そこでお姉さんは女の子に魔女の理解者になってもらおうと、色々な魔女の知識を教え始めました。魔女は怖い存在ではない事、人間と共存出来る事、魔女の知識はとても役に立つ事――。

 女の子も魔法の知識をぐんぐんと吸収して、人間ながら簡単な魔法を使えるようにまでなりました。


「私、魔法が使えたの?」

「ええ、筋も良かったわよ」

「じゃあ、どうして私は……」


 ゾンビちゃんは自分の記憶がありません。なのでゾンビになった理由を知りたがりました。その淋しそうな表情を見て、お姉さんはまた優しく頭をなでます。


「あのね、ある時、恐ろしい流行病がこの辺りを襲ったの。私も何とか防ごうとしたんだけど、ダメだった」

「もしかして……」

「そう、その時にあなたもその病にかかって、それで……亡くなってしまった。私の魔法では治せなかった……」


 そう話すお姉さんの顔はとても辛そうでした。この話の流れからゾンビちゃんは自分がゾンビになった理由について大体把握してきます。

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