第2話 今夜はハロウィン!
「な、なんで……?」
起き上がった視界から男の子げ消え去っていたのもあって、ゾンビちゃんはかなりショックを受けてしまいました。そうして周りをよく見てみると、道を行く人がみんなゾンビちゃんを避けている事に気が付いてしまいます。道の真ん中で派手に転んだのに、誰も心配して声をかけてくれなかったからです。
その事実が悲しくなったゾンビちゃんは、その場で思いっきり泣きました。どれだけ泣いても、やっぱりゾンビちゃんに声をかける人は現れません。
しばらく泣き続けて、泣き疲れたゾンビちゃんは辺りを見渡しました。すると、自分の周りだけ、まるで結界のように誰もいません。
避けられる理由も分からないまま、取り敢えずゾンビちゃんが起き上がると、その視線の先に可愛らしい生き物が。
「あ、猫ちゃんだ!」
猫好きだったゾンビちゃん、すぐにその猫を触ろうと近付きます。
「ふーっ!」
ゾンビちゃんが近付くと、猫は警戒して毛を逆立てました。これでは簡単に近付けません。ゾンビちゃんはゆっくりと手を差し出し、ニコニコと笑顔を見せながらジリジリと近付きます。
最大限に慈愛を表現しながらの接触作戦だったのですが、どうやら猫にゾンビちゃんの気持ちは全然伝わっていないようでした。
後もうちょっとで触れるかもと言うくらいの距離にまで近付けたところで、毛を逆立てていた猫は態度を一変、一目散に逃げ出してしまったのです。
街灯が照らしているとは言え辺りは結構な暗闇で、素早くゾンビちゃんの前から姿を消した猫は、すぐに見えなくなってしまったのでした。
「あ~あ……」
大好きな猫からも嫌われ、ゾンビちゃんはがっくりと肩を落とします。ゾンビちゃんは失意のまま、トボトボと街の賑やかな方に向かって歩き始めました。普段なら静かなこの街は、いつもなら夜になると一層静かになります。
けれど、今夜は特別な日なのか、外が真っ暗になったのに中心部ではまだまだとても賑やかなのでした。
きっとお祭りか何か、そう言う日に違いありません。その賑やかさはゾンビちゃんの淋しい心を満たしていきます。楽しそうな雰囲気が近付いてくると言うだけで、心が今にも踊りだしそうなくらいなのでした。
夜でも街が賑やかな理由、それは今夜が特別な日だったから。一体何のお祭りなのでしょう。ヒントは今日の日付が10月31日だと言う事。
そう、10月の最後の日の夜は――ハロウィン!
ハロウィンの日は子供達が仮装して家々を回り、お菓子をねだるのが習わしです。夜になると繁華街では仮装をした人達が賑やかに遊んでいました。
街の外れでは変に避けられていたゾンビちゃんですが、この仮装した人々の中では割と普通に溶け込む事が出来ました。何ならゾンビちゃんとほぼ同じ格好をした子もいたのです。
ゾンビちゃんは周りの人々に普通に受け入れられていると言うだけで、とても心が嬉しい気持ちで満たされていくのを感じるのでした。
「可愛いゾンビちゃん、こんばんは」
「あ、えっと……」
「ハロウィン、楽しんでね」
何かのキャラクターのコスプレをした大人のおねーさんがゾンビちゃんに挨拶をします。この時、突然話しかけられたのもあって、ゾンビちゃんは上手く返事が返せませんでした。
戸惑うゾンビちゃんでしたが、もうひとつ腑に落ちないところがあるようです。なので、ゾンビちゃんは首を傾げました。一体何が引っかかったのかと言うと、おねーさんの発した一言が原因です。
「ゾンビちゃんって、もしかして私の事……?」
そう、ゾンビちゃんはお墓の中から目を覚ましましたが、自分がゾンビだと言う事に全く気付いていなかったのです。目覚めてからまだ一度も自分の姿を鏡で見ていません。
手足を見ても青白い事は分かるのですけど、目覚めた時からそうだったと言うのもあって、生まれつきそう言うものだと思い込んでしまっていたのです。
困惑するゾンビちゃんの前に今度は魔女のコスプレをした女の子が現れます。背格好はゾンビちゃんと同じくらい。
その女の子は興味深そうにゾンビちゃんの前まで歩いてくると、ニッコニコの笑顔で話しかけてきました。
「あなた、すごいわ!」
「えっ?」
「ゾンビのコスプレ、完璧じゃない?」
「えっと……」
女の子にも自分の事をゾンビだと言われて、ゾンビちゃんは自分の体が青ざめている理由を自覚しかけてきました。ただ、それを受け入れてしまうと本当にモンスターになってしまうような気がして、上手く返事を返せません。
女の子はゾンビちゃんの返事を待たずに、更にグイグイと迫ってきます。
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