ゾンビちゃんとハロウィンの魔女

にゃべ♪

第1話 目覚めるゾンビちゃん

 とある国のとある霊園、訪れる人もいなくなった真夜中にその事件は起こります。何と、動くもののないはずの無人の霊園に動くものがあったのです。それはこの霊園でも割と隅っこの方にある小さな墓石でした。もう訪れる人も途絶えてしまったのでしょうか、その墓石は結構痛んでいます。

 その墓石の下には、当然のように埋葬されたご遺体があります。墓石が動いた理由、それはこのご遺体にあったのです。


「あれ?」


 この時、ご遺体のはずのその少女が突然目を覚ましました。びっくりしますね。死体が目を覚ますと言う事はありえません。あり得るとしたら、もうそれは人間ではない別の何かと言う事です。そう、その子はゾンビとなって復活したのです。

 目覚めたゾンビちゃんは、自分が棺桶の中にいると言う事に疑問を抱きました。


「変だここ! 起きなきゃ!」


 ゾンビちゃんは暗くて狭いこの場所から起き上がろうとします。それが墓石が動いた理由なのでした。

 普通は多少の力ではびくともしない土の中ですけど、ゾンビちゃんがうーんと頑張ったので、見事に土の中から顔を出す事が出来ました。やったね、ゾンビちゃん。


「うわー、真っ暗だー」


 せっかく外の世界に顔を出したのに、その景色も同じように真っ暗だったので、ゾンビちゃんはがっかりしました。夜だから仕方ありません。

 しかも空を厚い雲が覆っているのか、本来なら夜空一杯に輝いているお星様達も、お月様すらも見えなかったのです。残念。


「ここは……どこ?」


 ゾンビとなって復活したところまでは良かったのですが、ゾンビちゃんは肝心の人間だった頃の記憶をすっかりなくしていました。自分がとっくの昔に死んでしまった頃すら自覚出来ていなかったのです。


 ゾンビちゃんの見た目は10歳くらいのあどけない女の子。けれど、ずっと棺桶の中にいたから服はボロボロ、体もボロボロです。もう生きていないので顔色も最悪でした。だから見た目はとてもみすぼらしい感じです。


 とは言え、周りに鏡的なものがないのもあって、ゾンビちゃんはそう言うのを一切気にしません。気にしないまま、フラフラとゾンビちゃんは自分のいた霊園から出ていきました。

 ペタペタと裸足で歩くその足音だけが、静かな霊園の中で響き渡ります。


「うわあ、うわあ……」


 ゾンビちゃんは、目覚めてから初めて見る街の景色に好奇心を踊らせながら街を彷徨い歩きました。目に映るものが何もかも新鮮なのです。その半開きの口が閉じる事はありませんでした。

 家も、お店も、それ以外の建物も、道も、車も、歩く人々も――。とにかく何もかもが不思議で面白かったのです。


 やがて、ゾンビちゃんは自分と同年代くらいの子供を見かけました。日も暮れているのに夜中に1人でいるなんて一体どうしたのでしょう?

 そんな疑問はさておき、その男の子に向かってゾンビちゃんは突進します。ゾンビちゃんは友達が欲しかったのです。


「あーそーぼー!」


 真夜中に突然知らない女の子が追いかけてきたら、普通びっくりしますよね。しかも見た目もみすぼらしい裸足の女の子、よく見るとお肌の血色も真っ青です。

 この事態に男の子は恐怖を感じて逃げ出しました。化け物が襲ってきたでもと思ったのか、それはもう必死の形相です。

 ゾンビちゃんはそんな男の子を目にして、逃げる理由を知りたくて全力で追いかけました。


「なんで逃げるのー?」


 追いかけられた方の男の子も、ゾンビちゃんがしつこいので更に命懸けで走ります。ゾンビちゃんの筋力は見た目通りの小さな女の子のそれでしたので、男の子との距離は一向に縮まりません。

 とは言え、ゾンビ化したせいなのか持続力はついたようで、走り続けてもあんまり疲れはしないみたいでした。


「ひえええ~」


 怖がった男の子はもうすっかり怯えきっています。その恐怖が普段以上の力を発揮させていたのでしょう。そのおかげで、疲れ知らずのゾンビちゃんとの距離を維持し続ける事に成功していました。

 ただし、この状況が続けば、いずれ疲れ切った男の子にゾンビちゃんは追いつけるはずです。ずっと追いかけっこを続けている内に、段々とその未来も近付いてきました。


「つーかまえ……あっ!」


 後もうちょっとと言うところで、ゾンビちゃんは派手にすっ転びます。ゾンビちゃんはゾンビだからなのか、起き上がるのにとても時間がかかってしまいました。

 このアクシデントによって、男の子はすたこらさっさと逃げ切ってしまいます。

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