5 目覚めよ勇者!戦え!スーパーとちぎ号!

「きゃ、キャプテンがやられた!!」


 ――水陸両用大型武装船『ビッグ・サーモン』。

 250メートル級の船体、その船首には禍々しき巨大なシャケの頭。

 ノルウェー国民はサーモンが大好きなのだ。

 当然船内にはシャケの養殖設備が備わっている。


 そのビッグ・サーモンの見張り台――。

 スーパーとちぎ号を望遠鏡で観察していた海賊の一人が悲鳴を上げる。

 折りしも第二陣の出撃準備が整ったところであった。


「聞いたか野郎ども……! キャプテンの最期の叫びを!!」


 船長の爆死に涙を流す――パイレーツ海賊団副船長、デス・ビュッフェ!

 ユニコーンのごとき鉄カブトを被った細マッチョ系海賊おじさんだ。

 船長のデス・バイキングとは幼稚園からの長い付き合い。

 二人で食べ放題に行くのがお決まりのデートコースであった。


「ここで引き下がればパイレーツ海賊団の名折れ!!

 キャプテンの弔い合戦だあああああああああ!!!」

「「「オオ―――――――ッ!!!」」」


 デス・ビュッフェの号令! 団員に気合を注入!

 全員の血圧が急上昇する!


「右舷、全砲門開け! 斉射回数、六! その後は白兵戦だ!!」

「「「オオ―――――――ッ!!!」」」




 チュドーン! チュドーン! チュドーン!


「「「ワーワー!!!」」」「「「キャーキャー!!!」」」


 砲撃によりスーパーとちぎ号が悪魔的に振動!

 車内に響き渡る一般庶民乗客の悲鳴!

 海賊の第一陣は制圧されたが、危機は去っていない!


「奴らめ、ヤケになったか!」


 神風かみかぜトオルがスーパーとちぎ号の屋根へと上がる。


「やあやあ我こそは! 地球代表地球ファイター神風トオル!

 貴様らの船長を討ち取ったのはこの俺だ!!

 狙うのは俺だけにしろい!!!」

「やかましい!!! もはや貴様の命だけでは治まらん!!!

 その列車に乗る栃木県民全員!!

 キャプテンへのお供え物にしてくれるわ!!!」

「ええい、海賊のごとき蛮族め……!!!」


 デス・ビュッフェの説得は不可能!

 怒り狂ったパイレーツ海賊団はスーパーとちぎ号をお仏壇に供えるつもりだ!

 一刻も早く、乗客を逃がさなければならない!

 神風トオルが運転士のいる先頭車両へと向かう!


「ッ!? ギョウザおとこ、そいつが運転士か!!」


 そこには宇都宮代表ギョウザ男と国有鉄道の制服をきた若い青年の姿。

 線は細いが背筋はピンと伸び、勇敢さが漂う。


「事情はわかりました……!

 超硬質装甲を持つこのスーパーとちぎ号でも――

 あの火力には耐えきれぬでしょう」

「ならば……!」

「ええ……! これより緊急停車いたします!

 あなた方も何かに掴まっていてくだされ!!」


 ギャギイイイイイイイイイイイイイイイ――――ッ!!!


「「「ギャアアアアアアアアア!!??」」」


 時速300キロからの悪魔的急ブレーキ!

 乗客に殺人級のGがかかる!

 重軽傷及び意識不明者多数!

 しかし! 座して死するわけにはいかぬ! 国の恥!


『乗客の皆様! 車内は大変危険! 急ぎ避難せよ!!』


 運転士のアナウンス!

 それぞれ助け合いながら車両から脱出する栃木県民!

 海賊船ビッグ・サーモンもスーパーとちぎ号に合わせ緊急停止!

 無情にも逃げる栃木県民に砲撃を加えんとす!


「バカめい! 一人も逃がすかあああああ!!」


 ボムン! ボムン! ボムン!


 ビッグ・サーモンの大砲が砲弾を撒き散らす!


「「ヒイーッ!!」」


 哀れ! 栃木県民は逃げきれずひき肉ミンチと化すのか!?


「そうはさせぬだべえええええ!!」


 おお、見よ!

 ギョウザ男がフトコロから取り出したのは巨大な餃子の皮!

 迫りくる砲弾へフリスビーのごとく投げつける!

 餃子の皮に包まれていく砲弾!

 ヒダヒダを形成しながら口が閉じられ、巨大な餃子と化す!


 ボフン! ボフン! ボフン!


 一瞬にして数倍に膨らむ巨大餃子!

 その内部で砲弾が爆発したのだ!

 ギョウザ男の作り出す特製餃子の皮はあらゆる物理エネルギーを吸収分散させる!

 爆風を中に閉じ込め栃木県民を守ったのだ!


「いいぞ、ギョウザ男!」


 神風トオルがビッグ・サーモン目がけて走る!

 狙うは指揮官! パイレーツ海賊団副船長デス・ビュッフェ!


「おのれコシャクな! 撃て! 撃てええええい!!」


 船体の側面、のぞき窓から海賊船員による機銃掃射!

 数百はあろうかという銃口が神風トオルを狙う!


「ちいいいいいい!!」

「グハハ! 近づけまい!!」


 地球真拳・銃弾掴みにより弾丸を無効化していく神風トオル!

 しかし!

 悪魔的な銃撃の密度!

 その場に足止めされてしまう!


 ボムン! ボムン! ボムン!


 休むことなく撃ちだされる砲弾!

 その全てを包み込まんとするギョウザ男だが――!


 チュドーン!!!


 無力化できなかった砲弾がスーパーとちぎ号に着弾!


「しまっただべ!?」


 チュドーン! チュドーン! チュドーン!


 スーパーとちぎ号の車体で炸裂する海賊砲弾!

 特殊装甲でも防ぎきれぬ火薬量!


 チュドオオオオオオオンンンンン!!!


 ついに中央車両が大破!

 爆発炎上! 木っ端みじんとなる!


「グハハハ! あの世で我が船長の専用鉄道となるがよいわあああ!!!」

「いかん、運転士がまだ――!」


 次々と爆発大破していく車両!

 残るは先頭車両と二両目のみ!

 スーパーとちぎ号の援護に向かおうとする神風トオルであったが――!


 チュドオオオオオオオンンンンン!!!


 爆発! スーパーとちぎ号が炎に包まれる!


「「ワーワー!」」「「キャーキャー!」」


 避難した乗客の悲鳴!

 哀れ! 栃木県と東京都を結ぶ高速鉄道が木っ端みじん!

 栃木県民はこれからどうやって東京へ行けばよいのか!


「おお、キャプテン! 間もなく銀河ステーションに列車が到着しますぞおおおお!!!」


 人々が絶望に包まれ、自決を試みる者が現れ始めた――その時である!


 プアアアアア――――――ンッ!!!


 鳴り響く警笛!

 黒煙を斬り裂き――


「なにい!?」

「おお、無事だったか!!」


 驚愕するデス・ビュッフェ!

 安堵する神風トオル、その他栃木県民!


「――乗客の避難は完了した! やるぞ、とちぎ号!!」

『オウ!!!』


 ドギャウウウウウウウウンンンン!!!


 バーニアを吹かし、上空へと舞うスーパーとちぎ号!

 鉄道列車ならざる動きである!

 そう! スーパーとちぎ号はただの列車ではない!

 超高性能人工知能『ウルトラAI』を詰んだ――


「変形だ! とちぎ号!!」

『チェエエエエエエンジッ!!!』


 運転士――あずまユウトを乗せたスーパーとちぎ号が発光し、変形を開始!

 車両フェイス部を胸に――腕、胴体、脚部が形成され――頭部が出現!

 変形完了! 全高15メートル級の人型ロボットとなる!

 スーパーとちぎ号とはトレインモードの呼び名!

 変形しヒューマンモードとなった――彼の名は!


『トチ! ギ! ゴオオオオオオオオ!!』


 ズシンンンン――ッ!!!


 大地を巻き上げ力強く着地!

 おお、見よ!

 ついに、栃木県民の待ち望んだ真の勇者が誕生した!

 栃木県・東京都間の路線を守る正義のロボット!

 その名も! 勇者鉄道トチギゴオー!


「へ、変形しただと!?」

「スーパーとちぎ号……人型ロボだったのか!」


 変形に見とれるデス・ビュッフェと神風トオル!

 トチギゴオー胸部には東ユウト!

 コクピット内で操縦桿を握りその動きをサポートする!


『罪なき人々を傷つける悪党! この私が成敗いたす!!』

「生意気なああああ!! ぶち壊してくれるわああああ!!!」


 ビッグ・サーモンの砲門がトチギゴオーを狙う!

 神風トオルへ向けられていた機銃も標的を変更!


 ボムン! ボムン! ボムン!

 ガガガッ! ガガガッ! ガガガガガー!

 ガガガッ! ガガガガッ! ガガガガガー!!


 全火力がトチギゴオーに集中する!


「跳べ! トチギゴオー!!」

『オウ!!!』


 トチギゴオーが跳躍!

 15メートル級ロボのジャンプは300メートルを優に超える!

 海賊船からの砲撃を回避すると同時に――落下エネルギーを利用した跳び蹴りを繰り出す!


『トチギゴオー・キイイイイイック!!』


 ガキョンンンンン!!


 ビッグ・サーモンの横腹に悪魔的キック!

 250メートル級の巨大船が傾く!


「「ギャアアアアアアアア!!」」


 甲板にいた海賊の半数が放り出される!

 80度まで傾くビッグサーモン!

 しかし! さすがは巨大海賊船!

 横転までには至らず、その復元力で元の位置に戻らんとす!


「グハハハ! 所詮はオモチャ! そんな攻撃が――」

『とおッ!!』


 おお、見よ!

 トチギゴオーはビッグ・サーモンの復元力を利用し再び天高く跳躍!

 空中で反転宙返りし急降下!

 これぞ! トチギゴオー二段構えの必殺技!


『トチギゴオー・反転キイイイイイック!!』


 ガキョンンンンンンンッッッ!!!


「「ギャアアアアアアアア!!」」


 再びビッグ・サーモンの横腹に悪魔的キック!

 先程の3倍の威力! スーパーデビル級キックだ!


 ズズウウウウウンンンン――――ッ!!!


 ビッグ・サーモンは完全に横転!

 勢いは止まらず一回転! 二回転! 三回転!

 瓦礫と土煙を巻き上げ、四回転目で停止、沈黙!


『やったか……!』


 トチギゴオーが反転キックから着地した――その時!


 シュゴオオオオオオオオオオ!!!


 土煙を貫いて襲い来る――

 その大きさは15メートル級のトチギゴオーを超えている!

 ジェット噴射で迫るそれはトチギゴオーに悪魔的衝突!


 ガキョンンンンンンンッッッ!!!


『ぐあああああ――ッ!?』

「うわああああ――ッ!?」


 弾き飛ばされ大地を転がるトチギゴオー!

 コクピット内の東ユウトにも悪魔的ダメージ!

 吐血一リットル!

 トチギゴオーを弾き飛ばした拳が進路を変え、今度は神風トオルへ迫る!


「ぬうううううう!?」


 直径20メートル越えの巨大な拳!

 対抗しようにも己の拳とは数百倍の差! 比べ物にならぬ!

 トオルは地球パワーを脚部に込め、地球真拳・地球ダッシュを発動!

 迫りくる拳を直角方向に全力回避!


「この攻撃――まさか!」

「グハハハ! そのまさかよおおおお!!」


 おお、見よ!

 土煙の中から現れたのは……海賊船ビッグ・サーモン!

 トオルを襲った巨大な拳が――

 歩行するたびに鳴る地響き!

 そう! スーパーとちぎ号が人型へ変形したように!

 海賊船もまた巨大な人型ロボットへと姿を変えていた!

 シャケ型の顔がその目を悪魔的に光らせる!


「これぞビッグ・サーモンの真の姿!

 その名も機甲海神きこうかいじんゴッド・サーモン!!!

 神風トオル! 貴様を栃木県ごと消し去ってやるわあああ!!!」

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