2 迫るCIA四天王! 悪魔のオスプレイ宙殺拳!(前編)

 住宅地から少し離れた小高い山、その中腹。

 木々の中にポツンと存在する木造建築物。

 地球ファイト決勝会場、シン・巣鴨へ向かう途中に

 二人が立ち寄ったのは――神宮寺じんぐうじ道場。

 神風かみかぜトオルが幼少より身を寄せ、武術を学んだ道場だ。

 道場主は地球真拳師範代、神宮寺ゴウショウ。

 父、神風アキラの兄弟子であった人物である。

 五十を過ぎてなお隆々とした筋肉が鉄紺の道場着から覗く。

 板張りの上にアグラをかく師と姿勢正しく正座するトオルとルリ。

 当然座布団はない!

 父からの手紙を師に見せるトオル。


「……ッ! この筆文字はッ!!」


 ゴウショウの鋭い右目が見開かれる。

 左目は縦に貫かれた刀傷により開かれることはない。

 己が持つのは五歳児だった頃の記憶のみ。

 父をよく知る師に頼ったのである。


「忘れもしない……。

 この達筆なようで達筆でない、少し味のある筆文字はッ!!」

「……ではやはり!」

「うむ! お前たちの父、神風アキラの字に間違いあるまい!」


 父との付き合いはゴウショウの方が長い。

 手紙をしたためたのはやはり神風アキラであった。


「しかし……奴は……!」

「? どうされました、先生!」


 しばしの間。

 ゴウショウが重い口を開く。


「お前たち兄妹きょうだいにはあえて伏せていたが……!

 今が話す時かもしれぬ! 聞く覚悟はあるか!」

「「ありまぁす!!」」

「本当にあるのだな!?」

「「ありまぁす!!」」

「かなり厳しいぃぃぃぃ! 話もするがぁぁぁぁああああ! 

 覚悟はあるんだなああああああああ!!??」

「「ああああぁぁぁりまぁああああああああああす!!!!」」


 元気な返事である!

 

 多少のことでは動じないのだ。


「神風アキラは――殺されたのだあああああ!!!」

「なんですとおおおおおおお!!??」

「お父上があああああああ!!??」


 まさかの衝撃発言!

 絶叫し思わず身を乗り出すトオル&ルリ!

 


「先生! 父が殺されたとは一体!?」

「アキラはある男と戦い――敗れたのだ!」

「なんと! あの誰よりも強かった父上が!?」

「立ち合ったであろう場所に駆け付けた時にはすでに――

 大量の血と肉片が残されるのみ!」

「……ッ!」


 想起させられる凄惨なる悪魔的光景に言葉を失うトオル!

 歯を食いしばりJKスカートを握りしめるルリ!

 その顔は泡を噴いて白目をむいている!


「そして……俺は見た! その血だまりの中、

 敗者をあざ笑うかのようにアメリカ国旗を掲げる――

 カウボーイハットにパツキンケツアゴの男の姿を!」

「アメリカ国旗!? カウボーイハット!?

 パツキンケツアゴ!? まさか!!」

「そう! 神風アキラが戦った相手は!

 アメリカ大統領! ミスター・ピザフライ!

 元アメリカ代表地球ファイターであり!

 16年前の第9回地球ファイト優勝者!

 今もなお! !!!」


『ふHAHAHAHAHA!! その通りよ!!』

「「「――ッ!!??」」」


 突如! 上空より降り注ぐ大音量のマイク音声!

 つづけて聞こえてくるのは――!


 ヒュウウウウウウウウウ……!


 何かの落下音!


「――いかん! 逃げろ!!!」


 迫る危機にゴウショウが気付いた直後!


 ズボオオオッッッ!!!


 道場の屋根を突き破り落下してきたのは――爆弾!


「「「――ッ!!??」」」


 チュドオオオオオオオオオン!!!


 爆発!!!

 神宮寺道場が木っ端みじんに吹き飛ぶ!


 ヒュウウウウウウウウウ……!

 チュドーン! チュドーン! チュドーン!

 ヒュウウウウウウウウウ……!

 チュドーン! チュドーン! チュドーン!


 連続する悪魔的爆撃!

 大量の爆弾が道場にまき散らされる!


「無事ですかああああ!? 先生いいいいい!!」

「これしきの爆撃いいいい!

 恐れるに足らんがああああ! 見よおおおお!」


 間一髪、道場から脱出していた三人!

 トオルが上空を見上げると――そこには!!!


「あれは……アメリカのB29爆撃機!」


 爆撃機の編隊が爆弾をまき散らし、去っていく!


「く、空襲だと……! 個人の道場に!?」


 なんという規格外の過剰攻撃か!

 まるで! 戦争ではないか!

 そして――B29の他にもう一機!

 上空に滞空する機体あり!

 米軍の垂直離陸機、オスプレイである!


『ふHAHAHAHAHA! 爆撃に耐えるとはさすがだな!』


 声の主はそう言うと――オスプレイから飛び降りる!

 ノーパラシュートだ!

 そして何事もなくトオルたちの前に着地!

 間違いなく――


「俺はアメリカ大統領直轄、CIA四天王の一人!

 天空のケーン!!

 プレジデント・ピザフライの命により!

 神風トオル! お前を抹殺する!!」


 現れたのはアイアンブルーのフライトスーツに身を包んだ大柄な男。

 パツキンのモヒカンヘア。

 口元は酸素マスクで覆われており、

 背中のタンクとチューブで接続されている。

 そして……

 明らかに異様な男である!


「CIA四天王……ピザフライの命令だと!?

 貴様! ピザフライが父を殺したというのは本当か!?」

「いかにも! 我らU・S・Aに歯向かう者には死!

 お前の父親も……プレジデントが直接始末してくださったわ!!」

「なぜ……なぜそんなことを!!」

「教えるかこのバーカ!!」

「おのれえええ!! 鬼畜米英いいいいいい!!!」


 神風トオルが地球パワーを解放!

 黒レザーのライダースジャケットがはためき、

 指ぬきグローブで覆われた拳を固く握る!

 そして怒りに任せ天空のケーンへ殴りかかる!


「甘いわあッ!!」


 天空のケーンは大きく跳躍!

 トオルの拳を回避する! ――しかし!


「愚かな! 高く跳びすぎだあああああ!!」


 おお、すでに!

 神風トオルは天空のケーンの着地地点を予測!

 先回りして待ち受ける!


「跳べば落ちるがこの世の道理!

 貴様を倒し、父とピザフライに何があったのか!

 洗いざらいしゃべってもらうぞ!!」

「くっくっく!! 所詮は青二才の浅知恵よおおおお!!」


 重力に引かれ落下するかと思われた天空のケーン。

 L字型に両腕を広げ――なんと! 手首を水平に回転させる!


 フィン! フィン! フィン! フィン!


 高速回転を始めたそれはまるで――プロペラ!


 フィイイイイイイ……ブオオオオオオオオンンンン!!!


 おお、見よ!

 彼の長い指は――プロペラのブレードと化した!

 天空のケーンは重力に逆らい、浮上!

 空を自由に飛び回る!

 その姿は……オスプレイそのもの!


「な、なんだと!?」

「これぞ我が拳法! オスプレイ宙殺拳ちゅうさつけん!!

 俺の両手はプロペラエンジン!

 生けるオスプレイと化した俺に死角なし!

 地べたを這いずるお前たちなど、俺の敵ではないわあああ!!」

「なんて奴だ! 常軌を逸している!!」

「やかましい! 死ねい!!」


 天空のケーンが急降下!

 悪魔的推進力を乗せた跳び蹴りを繰り出す!


「必殺! オスプレイ・キイイイイイック!!!」


 グシャアアアアアアアッ!!!


「ぐあああああ!!!」


 悪魔的威力! その破壊力はオスプレイが衝突したに等しい!

 林の中へ弾き飛ばされる神風トオル!


 バキバキバキ! ボキイッ! ズズウウウウウウンンンン!!!


 木々を十数本なぎ倒しようやく停止!


「兄上ええええええッ!!」

「CIA四天王……なんというパワーか!」


 叫ぶルリ! そのルリを庇うように警戒するゴウショウ!


「なんと他愛ない……。地球真拳、噂程ではないわ!」

「なんの、まだまだああああああ!!!」


 弾丸のごとく林から飛び出すトオル!

 再び上空へと逃れる天空のケーン!

 トオルの拳が虚しくくうを切る!


「くっ……卑怯な! 下りてこいいいいい!!」

「下りるかあああああ! お前が上がってこいいいいい!!」


 空を自由自在に飛行するオスプレイ宙殺拳。

 制空権を握る天空のケーンは圧倒的有利。

 このままでは……神風トオルはなぶり殺し! 死亡確定!

 天空のケーンがオスプレイ・キックを繰り出す予備動作に入る!

 ――と、次の瞬間!


 チュドオオオオオオオン!!!


「ぎゃあああああああああ!!」


 天空のケーンが爆発!

 飛来した光弾が命中したのだ!

 その発射元に視線を移すトオル、ルリ、ゴウショウ。

 そこには天空のケーンと同様、空中に静止する者の姿!


 ――全身を覆うパールピンクの装甲。

 各スリット部分は発光し、スラスターとして推力を生み出している。

 開いた手のひらからは白煙が立ち昇り――

 先程の光弾を発射したことがうかがえる。


「ムウ!? あ奴は!!」

「知っているのですか、先生!」

「聞いたことがある……。

 近年、世界各国で暗躍する国際犯罪組織『ビッグ・ライス団』!

 そのテロリストや改造人間を人知れず退治する孤高の戦士!」


 逆光により目を細めるゴウショウ。

 続けてルリが語り出す。


「そして――その正体は一切不明!

 ただ一つ、判明していることは――

 ではなくであるということ!」

「お、お前も知っているのか!? ルリ!?」


 そう、可憐なJKであるルリもご存知だ!


「ぐううう……! お前は……まさかッ!?」

「そう……そのまさかよ」


 身体から火花を散らすも爆発に耐えた天空のケーン!

 パールピンクの装甲を身にまとい、

 トオルの窮地を救った――彼女の名は!


「我が名は装甲くノ一・ヤエベニ!

 CIA四天王……貴様らの好きにはさせん!!」

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