1 唸れ地球真拳! 神風トオル対ドン・ナポリタン!(後編)
『ぼ、ボス……。すいません……』
通話相手はケチャッピーネ・ファミリーの殺し屋、
ペペーペッペ・ロンチーノだ。
彼らも
――しかし!
『……全滅です』
「あん!?」
『……全滅です』
「あんだって!?」
『全滅ですよ! ゼ・ン・メ・ツ!! ゼンゼン全滅!!!』
「あにいいいぃぃぃぃ!!??」
イタリア最強と恐れられた殺し屋集団が……まさかの全滅!
ドン・ナポリタンにとって信じがたい報告だ!
「全滅ということは……カルル・ボナーラは!?」
『死にました』
「ジェノン・ベーゼンは!?」
『死にました』
「ホモ・ドーロは!?」
『死にました』
「ピエッス・カトーレは!?」
『死にました』
「だ、誰にやられた!?」
『ピンク色の……よくわからん奴一人に……』
「たった一人に!? ま、マンマミーヤ……!」
『お逃げくだせえ……ボス……ガクリ』
チーン!
ペペーペッペ・ロンチーノは息絶えた!
これでドン・ナポリタンの最高戦力は失われた!
「どうやら当てが外れたようだな」
「ぐぬぬ……!」
ドン・ナポリタンに接近する神風トオル。
その拳は固く握られている。
とどめを刺すつもりである!
「そ、そうだ! いいことを教えてやろう!」
「いいことだと?」
「イエス! いいこと!」
「嘘をつくな! 何か企んでいるだろう!」
「滅相もない! イタリア陽気ナ国ヨ! イタリア人嘘ツカナイ!」
「貴様ああああああ!!! ――いいだろう、聞いてやる」
「ヒソヒソ話ヨ! もっと耳近づけて!」
石灯籠にもたれかかるドン・ナポリタンに顔を近づける神風トオル。
――と、次の瞬間!
「馬鹿め! くらえい!」
ブビュゥゥゥゥゥッ!!!
ドン・ナポリタンが口からタバスコを噴き出す!
「ッ!? ぐあああああッ!!??」
神風トオルの目にタバスコが命中!
ドン・ナポリタンの巧妙な罠である!
「げはははは! 目を潰されては何もできまい!」
「ううう……グスングスン……」
涙を流す神風トオル!
いかに地球真拳の使い手と言えど、タバスコが目に入れば痛いのだ!
「形勢逆転! ぶっ殺してやる!」
「グスン……クッ……クッ……」
大量に流れ出る涙!
その量は次第に増えていき――
ジャバジャバジャバジャバ!!!
その量は――全開の水道蛇口のごとし!
「な、なんだこいつの涙の量は!?」
「クックックッ……! フハハハハ!」
おお、神風トオルは泣いているのではない!
「フハーッハッハッハ!!」
笑っているのだ! その眼球も無事である!!
「な、なにいいいいい!?」
「この俺に目つぶしの類は通用せん!
眼球への異物を大量の涙で洗い流す技……これぞ地球真拳・流水のナミダ!!」
「なんて奴だ! 常軌を逸している!」
「やかましい! よくも騙してくれたな! 覚悟しろ!」
トオルの拳に地球パワーが込められる!
地球パワーの集束により拳が強力に発光!
その輝きは地球の色、青色だ!
青く発光する拳で力いっぱい殴りかかる!
これが! 地球真拳の必殺技!
「地球パンチ!!!」
グシャリ!!!
「オゴアああああ!!」
弾き飛ばされるドン・ナポリタン!
もたれかかっていた石灯籠が粉微塵と化し、屋敷塀に叩きつけられる!
体勢を立て直そうとするも……受けたダメージにより身体がうまく動かない!
地球真拳とは地球のパワーを自在に操る拳術!
地球パワーが込められた拳は――それ自体地球と化す!
その衝撃は! パンチの速度で地球が衝突したに等しいのだ!
まさに必殺の一撃である!
さらに!
今度はトオルの脚部に地球パワーが込められる!!
右脚が青く輝く!
そしてドン・ナポリタン目がけて跳躍!
地球パワーが込められた右脚を突き出す!
超必殺の飛び蹴りである!
「地球キック!!!」
ドグシャアアアアアア!!!
「おぐええええええええ!!??」
ミゾオチに地球キックが決まり、さらに弾き飛ばされるドン・ナポリタン!
神風家の塀を突き抜け、停めてあったマフィアカーにめり込む!
「お、おそるべし地球真拳……!」
叩き込まれた地球真拳の必殺技!
物理的に受けた衝撃と共に……流し込まれた地球パワーがその肉体を内部から破壊していく!
ドン・ナポリタンから火花が散り始める!
「地獄で待っているぞ……
チュドオオオオオオオオンンンンン!!!
爆発! 木っ端みじんとなった!
イタリア代表ドン・ナポリタン! 栃木に散る!
「手ごわい相手だった……!」
地球ファイトは決勝会場に着くまでが予選! サバイバル!
その道中において……このような熾烈な戦いが繰り広げられるのだ!
◆
「郵便屋さん……!」
「兄上……。手当はいたしましたが……」
ドン・ナポリタンを撃破し、屋敷内に戻った神風トオル。
そこには応急処置が施され、横たわる郵便屋さんの姿。
安らかなる表情。
――察するトオル。
「すまない……。俺が未熟なばかりに……!」
「……ッ!? 神風殿……無事でありましたか」
意識を取り戻す郵便屋さん!
「すわ!
「キャーコワーイ!」
恐怖のあまり泣き出す神風ルリ!
「貴様! 成仏できずに化けて出おったか!」
「あいや待たれい神風殿! ソレガシ死んでおりませぬ!」
「黙れ!
拳に地球パワーをこめ、地球パンチを繰り出さんとする神風トオル!
「お待ちを! お待ちを! もう一通、お渡しするものがあるのです!」
「なんと! 他に
「これにございます!」
「……こ、これはッ!?」
差し出されたのは上質なる上包み!
中の巻紙に記されていたものとは!
『決勝大会には来るな――神風アキラ』
おお、なんと! 差出人は神風アキラ!
行方不明となった父の名だ!
「これは父上の筆文字! まさか……生きていたのか!?」
「ええっ!? 父上がッ!?」
地球ファイトに父の影!
そして『来るな』の言葉の意味とは!
「『来るな』ということは……父上はそこに居るということ!
父上が関係しているならば、行かぬわけにはいかぬ!!」
「神風殿、ソレガシの配達バイクをお使いくだされ!
決勝会場は東京都、シン・巣鴨!
到着期限は本日正午! 時間がありませぬ!」
「本日正午!? 召集令状受け取ったの今だぞ!?」
「いろいろと理由がありまして! さあ、お早く!」
言い忘れた、と付け加える郵便屋さん!
「ちなみに! 神風殿は『地球代表』に選ばれました!
おめでとうございます!」
「地球代表の地球ファイターだと!? よくわからんがわかった!!」
地球代表ファイターとは!
地球ファイト実行委員会により選定される、いわゆる特別枠である!
その役割は――主に前大会の優勝団体を破ること!
特定の勢力による長期独裁を防ぐための刺客!
世界に潜む、強者中の強者が選ばれるのだ!
その責任は……重大中の重大!
「生きてまた会おう、郵便屋さん!」
「よろこんで!!」
郵便屋さんの乗ってきた配達用バイクにまたがるトオル。
カワハギ社の『テング三式』――メタリックテングレッドの五千馬力だ!
ヴォンヴォン!!!
アクセルを噴かすトオル!
彼は地球真拳の使い手であると同時に、
大型自動二輪車運転免許皆伝!
人馬一体! 五千馬力のバイクも何のそのだ!
「兄上! ワタクシも!」
同じくテング三式にまたがり、トオルの背に抱き着くルリ。
かわいらしいオッパイがポヨンだ!
「これより先はデビルも逃げ出す地獄の道のり!
妹よ! 生命の保障はできぬぞ!」
「悪鬼羅刹何するものぞ! 記憶に遠き我らが父上!
お会いできるのならば! 何を恐れることがありましょうぞ!!」
「よくぞ言うた妹よ! その覚悟見事!
ならば! ゆくぞおおおおおおおお!!!」
「はいいいいいいいいい!!!」
ヴァオオオオオン!!!
テング三式のマフラーが火を噴く! 物理的に!
そして瞬時に時速300キロを突破!
二人は地球ファイト決勝会場、シン・巣鴨を目指す!!
◆◆◆
――神風家のほど近く。
テング三式に乗る爆走兄妹を電信柱の上から見つめる者在り。
「トオル……ルリ……。やはり行くか」
そう小さく嘆く……その人物の表情を窺うことはできない。
頭部を含めた全身がパールピンクの装甲で覆われているからだ。
彼は……否、彼女こそは――
関東を中心に暗躍する謎の戦士。
装甲くノ一・ヤエベニである!
ケチャッピーネ・ファミリーが誇る五人の殺し屋を葬ったのも彼女だ!
「しかし……あの手紙の内容は――」
思考を巡らせた直後……装備されたレーダーに感あり!
超望遠機能により拡大された視界に映るのは――
航空兵器の大編隊!
「おのれ……ファッキンアメリカめ!!」
ヤエベニは跳躍し――いずこかへと消えた。
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