第8話 屋上で、またしても
昨日は体力テストがあった。オレは体力テストで男子勢を死ぬほど相手することになり、その上に勝手に霧島がオレを競争相手にされたりと色々あった。
まあ、別に一日くらいこんな時があってもいいだろう。そんな風にオレは思っていたのだが。オレは男子勢を相手することよりも霧島に勝手に競争相手にすることを止めるべきだったと自分で墓穴を掘る形になってしまった。
「ねえねえ、天谷君!」
「霧島君と体力テストでいい勝負したって本当?」
「どうだったの?」
クラスの奴らがやたらと声を掛けるようになったのだ。どうやらこれは霧島が自然と口にしたらしくそこからLINE上で広まっていったらしい。
霧島、恨む。
正直な所、ぼっちを好きになってしまったオレにとってはこれはもはや最悪の出来事と言っても過言ではなのだと思った。
オレへのこのピークはお弁当の時にまで続く羽目になった。
正直このままお弁当は自分としてはダルいことこの上ないのでオレは大好きな居場所、屋上で食べることにした。
まあ、食堂で食べる手もあるがあそこもあそこで人が多いから。
そんなわけでオレはお昼になった瞬間そそくさと屋上に向かった。
☆ ☆ ☆
「霧島とはもう絶対絡まねえ」
油断すればまたこんな感じになってしまうだろう。
屋上についたオレは早速弁当を開いた。オレは実は弁当を自分で作っている。というか、家の料理番はオレだ。
オレの姉ちゃんの凛は正直全くと言っていいほどに料理が出来ない。大学生となればそろそろ嫁にいけるように女子力を上げるべきだと思うのだが本人は「私にはお前がいるから大丈夫だ」と言っていた。どうやら嫁に行く気はないらしい。
少々意味深な要素がある気がしないでもないが。
今日の弁当のメニューは日の丸弁当だ。お弁当の半分はご飯を敷き詰め真ん中に梅干しを置いている。隣のお総菜コーナーには卵焼き、野菜もろもろ、タコさんウィンナーと実に庶民的なものばかりのTHE FUTU弁当である。
オレがご飯を食べ始めると、急に屋上のドアが開かれた。なっ、なんだと?
それは予想外だった。
まさか、この期に及んで霧島がやってきたのか?それとも姫川か?
そんな風に考えていたがそんな想像は的外れだった。
「げっ。先客いるし」
現れたのは青髪をショートカットにした女だった。その人は顔に少し見覚えがあり、少し考えてみれば同じクラスの人だと言うことを思いだした。
名前が確か…………
「たく、誰だよ………ってあんた同じクラスの天谷じゃん」
どうやら彼女も同じクラスだったことを思いだしたらしい。
考えてみれば、彼女はいつもクラスでも一人だった。だったら、この屋上で弁当を食べる事にも理由がつく。
「桃鶴雫であってるか?」
「え、何であたしの名前知ってんの?キモくね。いやまじキモいから」
「いや、クラスの奴らの名前くらいすぐ覚えるだろ」
なぜ名前を知っているだけでそこまで糾弾されないといけねえんだよ。
「というか、いつもあたしここで食べてるからさ、今日はともかくこれから来ないでよ」
「はぁ?なんでだよ。お前にのみここを使う権利があるわけじゃねえだろ」
「でも、最初にここを使ったのはあたしだよ」
頭痛くなっててきた……
「まあ、ともかく。これからこないで」
そう言うと彼女はオレが座っているベンチの隣にやってきてそのまま座った。
えっ、いや、隣に座んの?
「え、何で隣?」
「いいじゃん別に」
いや、良いけど良くないよ。
正直もう少し離れた場所で食べていただきたい。
そのまま彼女は弁当を開けてご飯を食べ始めた。
そのまま隣り合うオレ達は沈黙のまま、ただただ時間が過ぎていく。
まるで、別れる前のカップルの最後の晩餐。
そのまま、沈黙は続き彼女はすぐに食べ終えて立ち上がる。そしてオレの方を向くと一睨みして、出ていった。
何なんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます