第6話 体力テスト その一

オレは小学生の頃から嫌いな事がある。

それはずばり、体力テストである。

五十メートル走、ハンドボール投げ、反復横跳び、握力測定etc.

小学三年生までは普通に本気でやっていた。しかし、徐々に何故こんなことをしなければいけないのだろうという感情にオレは駆られた。


それ以来オレは体力テストを嫌い、また本気でやらず怠惰に励むことにしているのだ。

そして、そんな体力テストが今日、行われるのだ。

正直だるすぎる。

しかし、サボったとしても最後には結局受ける事になるのでいつも通り観念して体力テストを受けに学校へと向かった。



     ☆     ☆     ☆



教室に入るといつも通り皆が話しに華を咲かせている。耳を傾けるとその話の内容は体力テストばかりだ。

勝負しようぜ!とか去年どうだったん?とかオレ足なら負けないぜ!とか色んな話が聞こえる。

体力テストで勝負をするなどくだらないとオレは思うんだけどな。


オレが自分の席に座るとすぐに訪問者が。

まあ、言わずもがな姫川だ。


「おはよ!天谷君!」

「おう、おはよう姫川」

「早速話しに入るんだけどさ、今日体力テストあるじゃん?天谷君って運動出来るの?」


本当に早速だな。


「普通だな。出来たりすれば出来ないものもある」

「そうなんだ。ちなみに得意なものとかはある?」


得意なモノねー。

今まで全部生半可な志でやってたから正直どれが得意、得意じゃないがよく分かんないんだよな。

まあ、感覚的に考えればいいのか。


「オレはまあ、五十メートル走とかそこら辺だな。後、持久走とか。体力には自信がある。ただ長座体前屈とかは苦手だな。体は硬い方だ。」


ぶっちゃけ本当にオレの体は硬い。


「そっかー。私は握力がどうしても弱くてさー」

「去年はどれくらいだ?」

「確か………9だったかなー」

「ふむ、9㎏か…………………………………えっ!9㎏!?」


一桁だと!?

まだ、小学生でも頑張れば二桁いけるぞ!?どんだけ弱いんだよ!


「マジなの?」

「うん、本当なんだよね。ちょっと手、出して」


え、なんで?

まあ、断る理由もないのでオレは普通に手を差し出す。すると、彼女はあろう事かオレの手を思いっ切り握ってくる。

ああ、握力が9㎏だってゆうことを本当だってオレに教えてくれるわけね。

いやでも、男子からの目線がエグイ。

それぞれ略していくなら、シネェェェェェェ、シネェェェェェェェェェェェ、シネェェェェェェェェェェェェェェェェ、ってシネしか言ってねえ。


それと姫川はいつになったら思いっ切り握ってくれるのかね。今はただただ姫川の柔らかく温かい手で握られてるだけなんだが。


「なあ、姫川。そろそろ本気だしてくれませんか?」


オレがそう言おうと姫川を見たら、そこには思いっ切り顔を赤くする姫川がいた。


「えっ、お前、まさかそれ本気?」

「うん、これ本気だよぉ!んーー!」

「いや、全然痛くねぇ………」


姫川は力がないとオレは分かったのだった。

後、大半の男子をオレは敵に回した。たかが手を握られた程度なのに、短気なものだ。

しかし、可愛い奴に握られるのは普通は嫉妬するものなのかと考えもした。



     ☆     ☆     ☆



さて、そんなわけで始まった体力テストだが、まず最初に行われたのは五十メートル走である。

本気は毎回出してないが去年は6.3秒だった。速いな!と友達皆にチヤホヤされたことを覚えている。


順番は番号順なのでオレは最初である。

なんで名字があ行なんだ………。

五十メートル走は二人で並んで走る。オレと一緒に走るのは出席番号二番の淡島義輝あわしまよしてるだ。

隣に並んだ瞬間、もの凄く睨まれた。

なんだよ。


「お前、さっき姫川さんに手ぇ握られてただろお……」

「流れでだけどな」

「ふん!だが、残念だったなぁ!これで俺がお前に勝てば俺は手をにぎにぎして貰える約束を姫川さんから頂いている!」


何してんの姫川。

オレが姫川の方を見るともの凄く目がキラキラしていらっしゃる。

え、何?


「ふっふっふっ、残念ながら貴様に勝機はない!俺は去年陸上部で大会でも入賞している!勝てる!お前だけに姫川さんのお手々を堪能させるわけにはいかんのだぁぁぁ!」


コイツ気持ち悪ぃー。

と、隣から「はよ準備しろ」と声が掛かりオレ達はそれぞれセットする。オレは普通に体勢を取ったが隣の淡島だけはまさかのクラウチング。

いや、どんだけ本気なの? 

一応、もう一度姫川を見る。

キラキラキラァー。

だから何よ。


「よーい、ドン!」


かなり幼い合図でスタートすると互いに飛び出した。まあ、今回も五割程度で大丈夫だろう。

走っていてふと、隣を見てみると……あれ?

いなくね?


「うぉぉぉぉぉ!」


後ろから叫び声が聞こえる。どうやら普通に勝っているようだ。

オレが言うのもなんだが、もっと頑張れ。

そのままオレが勝ってゴールイン。

オレは殆ど汗を流していないが隣の彼は死ぬほど汗を流している。

本気だったのかよ。

すると、タイム計測していた女の子二人がやってきた。


「淡島君、6.1秒。速いね!」

「いや、天谷君の方が凄いよ!5.8秒だって!」


去年よりもオレは五割で0.5秒速くなったらしい。まあ、結構速くなったな。


「くぅぅ!おのれぇ!天谷!しかし、まだ俺達には手がある!今男子達で同盟を組んでいるのだ!お前にはそいつらを倒せるか!」

「勝手にやっとけ」


面倒くせえ。

オレが離れていると、霧島の番だ。

やっぱりアイツは速いな。そして、走っているときもカッコいい。

走り終わると霧島はこちらにやってきた。


「よう、天谷。どうだった?」

「5.8秒だ。お前は?」

「5.7秒、ギリギリ俺の勝ちみたいだな」

「オレは競ったつもりないけれど」

「まあ、そうだけどね」


そう言って苦笑いした。


「せっかくだしこの後も勝手に競って良いかな?」

「まあ、別にいいぞ」


オレはそう言った。でも。これはぼっち好きになってしまったオレにとっては本当に良くない事だった。


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