第35話 王城での戦い⑥
「絶対に逃がすな。外に出るついでだ、他の召喚組どもも一緒に捕まえてこい。もう泳がせておく必要も無い」
王が命じると、召喚組の半数以上が天乃瀬を追いかけるために玉座の間を出て行った。
隙を突いてリリアの元へと走ろうとするが、鈴木の横なぎの一撃で壁まで吹き飛ばされる。攻撃は完全に防がれるが勢いまでは殺せない。吹けば飛んでいってしまいそうな俺の防御力ならば尚更だった。
体を壁にしたたかに打ち付ける。右腕を動かすことができず、動かそうとするたびにしびれるような痛みが広がった。どうやら骨が折れているらしい。
左腕でなんとか体を持ち上げようとするが、鈴木が俺の目の前に現れると高く掲げた大剣を力任せに何度も振り下ろしてくる。悪鬼のような形相の鈴木は、全て忘れたいとでも言うかのように一心不乱に剣を振るっていた。
「鈴木……!陽ノ守はどこだ……?」
鈴木達がこの部屋には言ってきたときからずっと姿を見ていない。嫌な予感が頭を掠めていた。
「陽ノ守は……」
「死んだ」
鈴木の代わりに答えたのは王だった。
「死、んだ?」
「類を見ない魔法に優れた者だった。半魔にすればおそらく魔王にも匹敵する力を得ることが出来ただろうに、私の言うことを聞かないばかりについうっかり呪縛を強くしすぎてしまったのだ」
王の言っていることが理解できなかった。
陽ノ守が死んだ。その言葉の現実味の無さに、一瞬今どこにいるのかすらわからなくなる。
「ほんとに、死んだのか?陽ノ守が……?」
「あぁ、あいつは死んだよ……!俺達の、目の前で……!この世のものとは思えない断末魔の叫びをあげながらなぁ……!」
陽ノ守の最期を思い出したのか、狂ったように剣を叩きつけてくる鈴木。そしてありったけの声をあげて叫ぶ。
「なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!どうして俺達がこんな目に会わなきゃならねぇんだよ、くそがよおおおおおおおおおおおおおおお!!」
幾度と無い力任せの攻撃に、ついに絶対防御が悲鳴を上げる。徐々にではあるが、膜にヒビが入り始めていた。それが意味するところは魔法を使っているリリアの力が弱まっているということ。
もはや猶予は残されていなかった。茫然自失している暇は無い。
それなのに、俺の体は全く動いてはくれなかった。速くリリアの元へ行かなければという気持ちはあるのに、まるで体にもう一つの心があって動かないように命じているようだった。
俺は自分で思っている以上に陽ノ守という存在を大切に思っていたらしい。初めて出来た仲間。こんな俺にも何かが出来ると初めて信じてくれた女の子。城から放り出されて陽ノ守が声をかけてきてくれなければ、俺はきっと何も出来ずに鈴木達のように呪縛の奴隷にされていただろう。弱すぎるからと殺されていたかもしれない。
気がつけば、俺の目からは涙が零れていた。
「茶番はもう飽きたな。何も出来ず見ていることしか出来ないその無様な姿を見て多少は気分も晴れた」
王がリリアの元へと近付く。
「やめろ鈴木……!やめてくれ……!頼む……!」
鈴木の攻撃を止めることさえできれば、俺にかけている絶対防御の魔法を解くことができる。そうすればリリアは自分の傷を治癒することも出来るはずだ。
だがいくら懇願しても鈴木が攻撃をやめることは無い。呪縛による痛みのせいなのかもしれないが、鈴木本人の私怨を感じずにはいられなかった。
いつだって俺の邪魔ばかりしてきた鈴木。中学校の頃からずっとそうだった。百メートル走を一緒に走れば当然のように転ばせ、バスケをすれば顔面に投げつけ、やってきた宿題をことごとく破く。何かにつけては俺にちょっかいを出し、馬鹿にし、笑いものにする。
俺はずっと昔から浮いていた。普通の人と少し価値観が違かったからかもしれない。だから友達なんて者は誰一人としていなかった。
でも鈴木はそんな俺から一度も離れることの無かった唯一の人間でもある。鈴木のことは大嫌いだが、多分心の底から嫌っているわけではなかったんだと思う。
だから、今ほどこいつを殺してやりたいほど憎いと思ったことは無かった。
一瞬でいい。少しでも鈴木の動きを止められればリリアは回復できる。俺に残された手段はもう一つしか残されていなかった。
確率剣の柄を掴み、鈴木が剣を振り上げた瞬間に振り抜く。当たるなんて思っちゃいない。この剣を信じて俺がどれだけ危ない目にあってきたかを思えば当然だ。当たらない前提で引き抜いたほうがよっぽど使い道がある。もはや剣である必要性もないが、張ったりとして使えることはすでに実証済みだった。
反撃してくるとは思わなかったのか、鈴木が一歩下がる。
刀身が無いとはさすがに思わなかったのか驚きの表情を浮かべる鈴木の顔目掛けてグラードに折られたナイフを投げつけた。いくら能力が高かろうと、不意打ちに加え殴れば届くような至近距離で放たれればさすがの鈴木も避けることはできない。
折れているとは言えナイフはナイフ。鋭利な断面は運よく鈴木の目を突き刺していた。
鈴木が叫ぶのと同時に声を張る。
「今だリリア!!絶対防御を解除して回復を……」
そう叫んだ途端、俺の胸に何かが当たったような衝撃が走る。
胸が熱かった。まるで熱した鉄を押し当てられているかのような感覚。
おそるおそる視線を胸元に移す。特に異常は無い。そう思っていたのは最初の数秒だけで、すぐにどろりと赤黒い液体が俺の左胸から溢れ出してきた。
力が抜け、まるで地面に引っ張られるように倒れ込む。何かに押しつぶされるかのように体が全く動かない。息も出来ない。瞼が重い。目を開けていられない。
何もわからなくなって、俺の意識は真っ暗な闇に閉ざされた。
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