第9話 初めての魔物討伐②
「元気出してくれよ陽ノ守。さっきのはある意味事故だったんだ。お前が気にすることじゃないよ」
「でも……!!私のせいで佐藤さんが怪我を……!!」
ありえない威力の魔法を撃ったことよりも俺を傷つけてしまったことのほうを悔やんでいるらしく、陽ノ守は何度も何度も頭を下げていた。
ちなみに陽ノ守は治癒の魔法も相当レベルが高いようで死ぬ寸前の大火傷を負ったにも関わらずこのとおりぴんぴんしている。
落ち込み肩を落としてとぼとぼ歩く陽ノ守を横目にさっきのことを思い出す。
正直魔法の威力があれほどのものとは思わなかった。
陽ノ守の高い魔法力によるところも大きいのだろうが、あれだけの威力があれば国家転覆も夢じゃない。それこそ、魔王城を突き止めてさっきのメテオを打ち込みまくればあっさりと魔王なんて倒せるんじゃないかと思えてしまう。
「ちなみにさっきはどんなことをイメージしたんだ?」
「佐藤さんが火の玉の話をしてくれたので、太陽のようなものを想像しました……」
なるほど、太陽ね。灼熱に燃え盛る太陽をイメージして作った火球ならあれほどの威力を発揮するのもわからなくはない。
だが、問題はそれを実現可能にしてしまう陽ノ守の力のほうだ。
さっきはあれだけの被害で済んだが(といっても半径五百メートルくらいは焦土と化した)、たとえば嵐だとか水流だとかを陽ノ守がイメージしたら台風やら洪水やらが巻き起こる可能性がある。それこそ大災害に発展するレベルで。
そして恐ろしいことにあれほどの魔法を撃ったにも関わらず陽ノ守のMPは四分の一くらいしか減っていない。治癒の分も含めるとさらに少ないだろう。つまりあと三発くらいさっきのメテオをぶっ放せるということだが、これだけで陽ノ守がどれだけ規格外なのかがわかる。
俺はとんでもない逸材を仲間にしているのかもしれない。
「とにかく、今の陽ノ守に必要なのは魔法をイメージする訓練だってことがわかった。それだけでも大きな前進だ。オークなんてさくっと倒して早く帰ろう」
正直オーク数匹なんて今の陽ノ守にとって敵じゃない。それどころか、一個師団体が攻めてきたとしても間違いなく返り討ちに出来るだろう。これでレベル1なんだぜ?信じられないだろ?
さっきのメテオをオークの固まっているところに撃てばそれだけで終わる。万が一オークが魔法に耐える可能性もあるが、あんな威力の魔法に耐える魔物がいるとは思えなかった。いたら逆にびびる。
歩き出そうとした俺の手を陽ノ守ががしっと掴み、顔の前に持っていく。
「ありがとうございます佐藤さん……!私、佐藤さんがいてくれて本当によかった……!私一人だったら、きっと取り乱してどうしていいかわからなくなっていたと思います……!」
「きっきききっき気にするなって」
いや別に動揺してないから。陽ノ守が突然手を握ってきたからちょっと驚いただけだから。女の子に手を握られて動揺するとか小学生までだから。ほんとなんだからっ!
しばらく歩を進めると、道の先に無人の荷車が無造作に放置されているのが見えた。荷台の後ろで何かが蠢いている。おそらく依頼にあったオークだろう。
作戦なんてもはや必要ない。なんせこっちには特大のバズーカ砲が控えている。それをあそこにぶっ放してやればそれだけで終わりだ。
食糧を載せた荷車だという話は聞いていたが、おそらくオークに手を付けられているのでもはや売り物にはならないだろう。ただ荷車だけは一応回収してあげたほうが依頼人も喜ぶかもしれない。
陽ノ守がいるおかげで絶対に揺るがない勝ちを確信していた俺はそんなことを考えた。考えてしまった。
「陽ノ守、作戦だ。俺が飛び出してオーク達をなるだけ荷車から引き剥がすから、ある程度離れたら魔法を撃ってくれ」
「魔法ですか……」
さっきの場面を思い出したのか陽ノ守の顔が曇る。
「大丈夫だ。さっきは太陽をイメージしたからあんなことになっただけで、ちゃんと威力を抑えたものをイメージできれば危険はないはず。そうだな……じゃあ今度は線香花火をイメージするんだ」
日本の夏の風物詩、線香花火。ぱちぱちと火花を散らした後にぼとりと儚く落ちる、どこか物悲しさを感じさせる花火だ。線香花火なら小さいし、いくら陽ノ守の魔法力が強くてもそれほどやばいものにはならないだろう。なじみが深い分イメージもしやすい。
「わかりました。やってみます」
「よし、じゃあ作戦開始だ!」
そう言って陽ノ守をその場に置いて走り出す。
自然と顔には笑顔が浮かんでいた。なんだか凄くわくわくしている自分がいる。紆余曲折あったけど、俺がずっと夢見ていた異世界の冒険が今まさに目の前に広がっているのだ。初めての魔物討伐、恐いという気持ちも当然ある。もしかしたら死ぬかもしれないのだから当然だ。でも、そんな恐れよりもどきどきわくわくの興奮の方が今は勝っていた。
あぁ、俺、今冒険してる!!ちゃんと冒険者してるよ!!
荷台に近付き、声が届くといったところで叫ぶ!
「こっちだ!!こっちに来い化け物!!」
俺の声に荷台で蠢いていたオークが反応する。話で聞いていたとおり、猪を二足歩行させたような魔物が三体、食料を貪り食っていた。
想像していたのと少し違ったのは、前足が異様に発達してゴリラのようになっていたことくらいか。器用に蹄で食料を挟んで口に挟んでいる姿は少し人間の仕草に似ていた。
俺の姿を確認するや否や、食料そっちのけでこちらに向かって走ってくる。距離は三十メートル程度。今から向かってきたところでそうそう追いつかれやしない!
そう、思っていたんだけれどね。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
オークが叫ぶと、まるでチーターのように両手両足を交互に前後して物凄い速さで突進してくる!おそらく自動車よりもずっと速い。あっという間に距離を詰められる!
おい誰だよドキドキわくわくするなんてほざいた馬鹿は!?こんなん、ただの恐怖でしかないわ!!
「陽ノ守さああああああああああああああああああああああああああああん!!」
情けない声で陽ノ守に助けを求めるも、陽ノ守は魔法に集中しているのか剣をこちらに向けたまま目を閉じていた。
振り返るともう目前までオークが迫っている。それも三体同時。右に避けてもオークに突進され、左に避けてもオークに突進される。当然このまま走ってもオークに追突される。まさに黒い三猪状態。まともに受ければ骨折程度ではすまないだろう。かといって俺の主武装である食卓用ナイフでどうにかできるわけもない。
こうなったら俺のとっておきを出すしかない……!
俺はばあさんから貰った確率剣、通称『ラッキー・スター』を掴む。確率は千分の一。だがここでそれを引けなければどの道逃げ場はない。
いや、何も心配することはないじゃないか。なんせ俺は一度千分の一という確率を引き当てているんだぜ?それもばあさんが引き当てたすぐ後にだ。それはつまり、俺は類を見ない豪運の持ち主だということの証左でもある。今俺の置かれている状況は絶体絶命のピンチ。今ここで引き当てられないわけがない。だってはずれたら俺死んじゃうもん。一度は微笑んでくれた幸運の女神様がそんな俺を見放すわけがない。
俺の体がぼうっと光に包まれる。なるほど、やはり俺は幸運の女神様に愛されているようだ。これは間違いなく『引ける』!!
「行くぞオーク共!!俺の剣を喰らええええええええええええええええ!!」
渾身の力を込めて叫び、勢いよく『ラッキー・スター』を引き抜く!俺を取り巻く光が殊更光を強め、まるで全身が輝いているようだった!
当然だ!!俺がこんなところで死ぬわけがない!!だって俺は、俺という物語の主人公なんだからなああああああああああああああああああああああああ!!
刀身はなかった。
「ちょっと待ってじゃあ何で光ってるの!?」
光の元を辿って上を見る。するとそこにはさっき陽ノ守が撃って見せた
陽ノ守を見てみると剣が光り輝いており、どうやらこれは陽ノ守の新たな魔法らしい。けど俺が言ったような線香花火とはちょっと、いや大分違うような……!?
「……行きます!!」
陽ノ守の声が聞こえるなり、俺とオーク達の頭上を追うように浮かんでいた光の玉がゆっくりと地面に近付いてくる。
あぁなるほど。これは線香花火がぼとっと落ちるイメージと似ているかもしれない。
え、何、ってことはこの馬鹿でかい灼熱の玉、落ちてくるの?俺達のところに?
光の玉は近付くなりじりじりと俺とオーク達の肌を焼き始める。熱量から言えば、さっきのメテオよりもずっと高いように感じああああああああああああああああああああああああああああああああ熱いあああああああああああああああああああ!!
ゆっくり近付いてくる分なおさらじりじりと肌を焼かれ、もはや拷問に近い。
オーク達も肌を焼くほどの熱さを持った陽ノ守の魔法に恐怖を感じたのか、俺を襲うよりも逃げるほうに切り替えたようだったが、なぜか俺の後ろを付いて離れてくれない。横三列に綺麗に並んでいるから横に飛んで避けることも出来ない。止まれば地獄止まらなくても地獄。
「陽ノ守いいいいいいいいいいいい!!違あああああああああああああう!!これは線香花火なんて生易しいもんじゃなあああああああああああああああい!!」
叫んで助けを請うが遠くて聞こえないらしい。加えて魔法に集中しているせいか目を閉じてしまっているので今どんな状況なのか自分でも見えていないのだろう。
こうなったらもう敵も味方も関係ない。振り返ってオーク達と会話を試みる。
「お前等!止まれ!止まるんだ!俺の為に!」
「ブモ、ブモモモーモ、ブモモモ!」
「駄目だ何言ってるかさっぱりわかんねぇ!」
気付けば光の玉はもう目前に迫っている。息を吸っただけで肺が焼けるように熱い。
「くそおおおおおおおおおおおおおお!何か!何かないのか!頼む!幸運の女神様!俺を守ってくれえええええええええええ!」
手に持っていた
「こんなときに出てくんじゃねええええええええええええええええ!!ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
陽ノ守が発生させた
マグマのように熱いそれに触れたオーク達の足は一瞬にして融け、転ぶと同時に全身も融解してしまう。緑色の血が噴水のように飛び散るが、それすらも一瞬で蒸発させ、後には骨も残らなかった。
俺はといえば、ぎりぎりで気付いた陽ノ守が魔法を止めたおかげで後一歩のところで融けるのを免れたが、またも全身大火傷の重傷を負った。
涙をぼろぼろ流して謝る陽ノ守に、俺はたった一言だけ告げる。
「魔王倒しに行こう……!今すぐ……!」
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