第8話 初めての魔物討伐①
ようやく装備が整った俺達は早速ギルドへと向かった。
どうやら鈴木達は既に何かの依頼を受けて出発した後らしく、建物の中にはいなかった。
ここのギルドでは、大広場の中央に設置してある掲示板に張られた依頼の紙を受付に持っていって受諾する形式のようで、そこは俺の知っているRPGゲーム等と特に変わりない。
早速掲示板を確認してみる。
依頼は難易度の高いものから低いものまでA~Gの7段階に分けられていた。低いもので言えばペットの捜索や探し人、弱い魔物の討伐などがあり、高いもので言えば上級の魔物――ドラゴンやキメラなどの討伐が主となっていた。
ただ、その高難易度の依頼の中でも、掲示板の中央――ど真ん中にでかでかと掲示されている依頼がいやでも目に留まる。
魔王リリア・キル・デスヘルガルムの討伐。難易度はSSS(トリプルエス)。俺達が最終的に達成しなければならない依頼だ。
というか魔王の名前、殺意高すぎない?リリアはいいとして、殺す・死・地獄の不吉な単語三拍子揃い踏み。出会った瞬間に殺されそう。
そして他の依頼とは一線を画す難易度SSS。報酬金も他の高難易度依頼と比べると桁が五つくらい違うことからしても、どれほど達成が難しいのか表しているようだ。
依頼の紙はボロボロでかなり年季の入ったものになっていることからして、相当昔から張り出されている依頼なのだろう。そしてそれが未だにはがされていないということは、つまり誰も受けようとしていないということでもある。
見れば、陽ノ守がその魔王討伐依頼を真剣な目でじっと見つめていた。俺が見ていることに気付いた陽ノ守は、やんわりと笑みを溢す。
「やっぱり相当難しいみたいですね、魔王討伐」
「まぁゲームで言えばラスボスみたいなもんだし一筋縄ではいかないだろうな」
「佐藤さんから見て、今の私達が魔王に戦いを挑んだら勝てると思いますか?」
俺達召喚組の戦力も相当高いと思われる(※俺を除く)が、それでも今すぐ魔王に挑むのはさすがに無謀というものだろう。こっちの世界のこともまだ全然わかっていないし、魔物がどれだけ強いのかも未知数。魔王の強さも計り知れない。何より俺達は少し前まではただの学生で、まともに剣なんて握ったこともないいわば能力値だけが高い(※俺を除く)素人だ。ここは先駆者達を見習って徐々に戦闘経験を積んでいくのが得策だろう。
「さすがに勝てないんじゃないか?」
そう答えるが、陽ノ守はどこか焦ったように言葉を続ける。
「でも、王様は私達の能力値は相当高いと言っていました。平均的な数値から見てもそれは明らかだと思います。鈴木さんは少しでも経験を積めば魔王に太刀打ちできるとさえ言われていました。そんな私達が一丸となって戦えば、もしかしたら……」
「陽ノ守は野生の猪と戦ったことってあるか?」
「猪、ですか?いえ、ありませんが……」
「じゃあもし今目の前に猪が現れたとして、どうやって倒す?」
少しだけ考え込んで、陽ノ守は言う。
「走ってきたところ目掛けて、急所に剣を突き刺す……とかでしょうか」
「それだけじゃきっと返り討ちにあう。野生の猪の体重は大きいので100キロ程度あるらしい。そんな肉の塊が時速40キロで走って来るんだ。まともに体当たりされれば骨折程度じゃすまない。いくらこっちに力があっても、そういった情報を知らなければやられるんだ」
ほとんど漫画の受け売りだけど!
だが、陽ノ守はその言葉を疑りもせずにふむふむと頷いていた。腑に落ちるものがあったのかもしれない。
「つまり、魔王の情報が何もない中で闇雲に戦ってもやられてしまうということですか。確かに、銃を持っていても撃ち方を知らなければただのガラクタと一緒ですもんね」
「とにかくまずは簡単な依頼から始めて経験を積まないか?」
俺の提案に陽ノ守は頷いてくれる。
陽ノ守の同意も得られたところで早速依頼に目を通すことにした。
―――
俺達が最初に受けた依頼はオーク数匹の討伐。
この世界のオークは、猪を二足歩行にして石鎚や槍なんかを装備させたような姿をした魔物らしく、俺の知っているオーク像とそんなに大差なかった。当然魔物なので言葉が通じることはなく、人間を見かけるとすぐさま襲い掛かってくるくらいには獰猛らしい。知能はほとんどなく、こちらに向かって武器を振り回してくるくらいしかしてこないため、初めての魔物討伐に向いていると受付の人が教えてくれた。
城下町の郊外にあるダラリス平原と呼ばれる場所で行商人が荷車で荷物を運んでいる最中に襲われたらしい。荷台に食料を積んでいたようなのでそれを狙われたのだろう。
城下町を出てすぐ、陽ノ守が話しかけてきた。
「オークについては教えてもらってなんとなく理解はしたのですが、どのようにして戦えばいいのでしょうか」
ちょっと前までは普通の女子高生だった陽ノ守である。突然異世界に飛ばされて魔物と戦えといわれてもどうすればいいのかわからないというのが正直なところなのかもしれない。
鈴木達のように多人数ならば注意を引く係や遠距離攻撃する係、直接攻撃しにいく係などと人数任せの作戦も立てられるだろうが、生憎と俺達は二人しかいない。しかも二人の内の一人は圧倒的に能力値が低い。誰のことかって?俺のことだよ!
だが、魔物との戦い方のセオリーは一応前の世界で勉強している。漫画や小説でだけど。こちらの戦力が少ない分、どのようにして動けばいいかの作戦は立てやすい。だが一つだけどうしてもわからないことがある。
「魔法の撃ち方なんてわかるか?」
悲しいかな、俺には魔法力も、魔法を撃つためのMPもゼロ。漫画の知識で言えば呪文を唱えればいいだとか頭の中のイメージをそのまま具現化するだけだとか色々な話は知っているが、どれを試したところで撃てやしない。ゼロはゼロだった。
異世界といえば魔法と相場が決まっているのにそれすらできないとか、イチゴの乗っていないショートケーキを食べるなもの。俺は陽ノ守の見ていないところで男泣きをしたがそれはまた別の話だ。
撃てないものは教えようもないので素直に陽ノ守に聞いてみると、ごそごそと懐をあさって何やら本のようなものを取り出した。ぺらぺらとめくり、目が文字を追う。
「魔法……魔法……魔法の撃ち方……あ、ありました!どうやら撃ちたい魔法を強く頭の中でイメージするだけでいいみたいです!」
「ちょっと待ってその手に持ってる本は何?」
「これですか?王様に貰った本です。みんなもらっていたので佐藤さんも持っていると思いますよ」
陽ノ守の持っている本の背表紙には、『駆け出し冒険者のためのガイドブック』と書かれていた。
貸してもらい目を通してみると、世界地図や代表的な魔物の生態、魔物との戦い方の心得や魔法の撃ち方など、それこそ駆け出し冒険者に必要な最低限の知識についてざっくばらんに書かれていた。
こんな便利グッズ配られてたっけ?
そう思い俺も懐をあさって見ると、いつの間に入っていたのか同じような小さな本を見つけた。
「あぁ、あったあった。これね……って、んん?」
俺の手に持っていた本。その表紙には『駆け出し農業者のためのガイドブック』と銘打たれていた。
「ってなんで俺のは冒険者じゃなくて農業者なんだよ!!」
ガイドブックを思いっきり地面に叩きつける!
能力値の低い俺は前線で戦うんじゃなくて前線で戦うものたちの為に農作物作れってことか!?確かにそれも大事だけど!違う!違うの!そうじゃないの!俺が持ちたいのは桑でも鎌でも如雨露でもなく剣なの!血沸き肉踊る戦いがしたいの!
「落ち着いてください佐藤さん!あんまり大きな声を出すとオークに見つかってしまうかもしれません」
「あ、あぁ、ごめん……」
陽ノ守に諫められ冷静さを取り戻す。
落ち着け、落ち着くんだ俺。
確かに俺は弱い。それは認めよう。だが逆にこの弱い立場はチャンスなんだ。俺には圧倒的な攻撃力を持つ剣(千分の一の確率で発動)がある。運次第で俺は真の勇者にだってなれるかもしれないんだ。
魔王だって鈴木達に追い詰めてもらって最後の最後、美味しいところをこの剣でかっさらってしまえば俺が世界を救った勇者になれる。
今は甘んじてこの立場を受け入れようじゃあないか。見ているがいい、俺を馬鹿にしたこと、きっと後悔させてやる……!!
「あの、佐藤さん?顔がオークみたいになってますけど……」
「なんでもない。気にしないでくれ」
兎にも角にも魔法の撃ち方はわかった。あとは陽ノ守がどれくらいの力を持っているか調べれば俺達の戦力がいかほどかわかる。
「何かイメージできる魔法とかあるか?火の玉を飛ばすとか、水流を出すとか」
試しにイメージを伝えて見ると、陽ノ守は目を閉じて頭の中で想像し始めた。
すると陽ノ守の周りに何か目に見えない力のようなものが集まってきているのがわかった。
「なんとなく想像できました」
「よし。じゃあ試しにあそこにある岩を目標にして今陽ノ守がイメージした魔法を撃ってみてくれ」
「わかりました」
頷くと、剣を抜いて岩に向ける。
陽ノ守の周りに集まっていた力が剣に集まっていき、仄かな光を帯び始める。その光はどんどん強くなり、ある一定の輝きに達すると剣の切っ先に大きな火の玉を発生させた!
RPGでよく見る火の魔法……
「いきます……!!」
陽ノ守がそう宣言するや否や、目にも留まらぬ速さでぶっ飛んでいった
正直ファイヤーボール《火球》って威力じゃねぇ……!
あまりの威力にぶっ飛ぶ俺。
ジュウジュウと顔が焼けるのが痛みと匂いで伝わってくる。このまま死ぬんじゃないのと思えるほどの威力を持った陽ノ守の魔法は、周囲を焦土へと変えてようやく収まった。
「だ、大丈夫ですか佐藤さん!!」
「たいしょうふしゃない……!たいしょうふしゃないからはやくなおしへ……!」
「わ、わかりました!治れ~!治れ~!」
傷を治すというイメージはつきやすかったのか、緑色のあたたかな光が俺を包むと一瞬にして火傷が治っていく。
傷が治ったことを確認すると、陽ノ守は泣きそうな顔で俺の顔を覗き込んできた。
「すみません、私……!!私……!!」
陽ノ守の涙がぽたぽたと俺の顔に落ちてくる。そんな陽ノ守の肩に手を置いて、俺は優しく告げた。
「魔王倒しに行こう……!今すぐ……!」
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