第5話 装備を調達せよー防具編ー

陽ノ守かえで(ひのもりかえで)

レベル1

H  P・・・2101(300)

M  P・・・2985(100)

攻撃力・・・444(50)

防御力・・・516(50)

素早さ・・・476(50)

魔法力・・・822(20)


 陽ノ守の能力値を見せてもらって俺は絶句した。

 何これ、高すぎじゃない?

 俺達の中で最高の能力値を持つ鈴木が前衛最強だとしたら、陽ノ守は後衛最強で間違いないだろう。なんといっても魔法力がずば抜けて高い。ていうか高すぎる。この世界において魔法がどれほどの威力を持つものなのかまだ見ていないのでなんともいえないが、その辺の魔物だったら一瞬にして葬れるくらいの力はありそうだ。


 対して俺の能力値ときたら……!!おそらく陽ノ守にドロップキックでも食らわされた日には爆発四散しそうなレベルだ。ほんとにどうして陽ノ守が俺なんかの仲間になってくれたのか不思議でならない。

 あまりの差に開いた口が塞がらない俺に、陽ノ守はどこか恥ずかしそうに顔を赤くしながら能力値が書かれている紙をしまった。


「なんだか自分の成績表見られているみたいで恥ずかしいですね」


 そういうことなら真に恥ずかしいのは明らかにこっちなのだが、それを言ってしまうとあまりにも自分が惨め過ぎるので能力値についてはこれ以上触れないことにした。


「それで、この後はどうしますか?」


 能力値の開きなどおくびにも出さず意見を聞いてきてくれる陽ノ守にあたたかい気持ちになりつつ言葉を返す。


「とりあえず王様のいうとおり武器と防具を買いに行こう。さすがにこのまま制服でって言うものちょっとあれだし」


 俺達が召喚された城もそうだったが、この世界はどちらかといえば元の世界で言う西洋に近い文化があるようで、俺や陽ノ守が着ているブレザーはちょっと浮いていた。道行く人に物珍しそうに見られていることに陽ノ守も気付いたのか、さっきとは違う意味で顔を赤くさせる。


「佐藤さんのいうとおりですね。ではまずは防具屋へ行きましょうか」


 そうして俺と陽ノ守は王様に教えてもらった防具屋へ向かうことにした。


―――


 防具屋につくと、俺達の他にも異世界転移してきた学生たちが防具を選んでいるのが目に付いた。みんな漫画でしか見たことのないような鎧や兜に興味津々のようで、俺達が入ってきたことも特に気にする様子はなかった。


 王様の手配のおかげなのか実に色々な種類の防具が取り揃えられており、能力値に合った装備を選べるようになっているようだ。

 

 俺の隣で装備を見ながら陽ノ守が聞いてくる。


「こういった場合はどのような装備を選んだほうがいいんでしょうか」


 どうやら陽ノ守は俺の知識を当てにしてくれているらしい。

 当然頼られて悪い気なんてするわけがない。俺はこれまでに読んだ異世界物の話を思い出しながら答える。


「陽ノ守の能力値からして魔法攻撃が主体になるだろうから、軽い装備を選ぶべきだ。後衛なら敵から直接攻撃を受けることはほぼないし、もし魔法が飛んできても装備が軽ければ避けるのもたやすい。出来るだけ体を軽くしてちょこまかと動き回りながら魔法で攻撃するのがいいんじゃないか?」


 そもそも陽ノ守の能力的に装備による能力上昇なんて雀の涙程度の違いしかないだろうけど。

 RPGなどのゲームをやったことのある者なら大方思いつきそうなセオリーどおりの説明だったが、陽ノ守は感心したように何度も頷いていた。


「ただ防御力が高ければいいっていうものでもないんですね。となると……やはりこういうのがいいんでしょうか」


 そう言って陽ノ守が指差したのは魔法師装備一式とかかれた防具。大きめのとんがり帽子にマントといったどこでも見るようなまさに魔法職といった装備だった。ところどころに可愛い装飾があしらわれており、男性向けというよりかは女性向けだろう。陽ノ守が身につけたら似合いそうだ。

 名札を見てみると、魔法攻撃力増加や魔法防御力増加といった効果が付与されているらしい。まさに迷ったらこれを買えといわんばかりの装備。事実、魔法力の高い他の女子学生達はほとんどがこの魔法師装備一式を購入していた。


 だが俺は首を横に振る。代わりに指差したのは剣士の装備一式。その中でも、頭や胸などの急所になりえる部分を中心に守る比較的軽いものだ。


「剣士装備……?でもさっき魔法で戦ったほうがいいって言ってませんでしたか?」


「もちろん理由はある。あんなとんがり帽子かぶってたら魔法撃ちますって敵に知らせてるようなもんだ。殲滅力の高い魔法職を真っ先に狙うのは常套手段。確かに魔法力増加は魅力的だけど、その魔法を打つ前に倒されちゃ意味がない。だったら剣士に紛れていたほうが狙われにくいしずっと安全に攻撃できる」


 俺の説明に陽ノ守は得心が言ったという風に頷き、顔を輝かせた。


「なるほど、確かに佐藤さんの言うとおりです。それに剣士装備なら矢が飛んできたとしても急所に当たるのを防ぐことができますもんね。佐藤さんに聞いてよかったです。では早速買いに言ってきます!」


 素直すぎる……!!いつか悪い人に騙されないか心配になっちゃう……!!

 嬉しそうに言う陽ノ守に提案したこちらまで嬉しくなる。剣士装備なんて無骨で可愛くないから普通なら嫌がりそうなものだが、一切疑わずに信じてくれた陽ノ守があまりにも眩しく映る。

 だが、陽ノ守が装備を買いに行こうとすると、どこからともなく声が飛んできてそれを阻止した。


「お待ちくださいませお客様!ワタクシはその方の意見には反対でございます!」


 見れば、店員らしき女性が陽ノ守の前に立っていた。

 店員は俺の前までやってくると指をびしっと突きつけて、聞いているこちらの耳が痛くなるようなキンキンした金切り声で言う。


「魔法職が剣士の防具を装備するなど言語道断!それこそブタに剣を装備させるようなもの!まったくエレガントではございませんわ!」


「いや装備にエレガントさは必要ないんじゃ……」


 押し気味な店員の気迫に気圧されながら返すが、どこかヒステリックな店員の声にかき消されてしまう。


「おだまりなさい!!装備とはいわばファッション!!舞踏会に寝巻き姿で参加する女性などいるわけがない!!そんなものを女性に勧めるなんて、あなたのセンスを疑います!!はっきり申し上げますが、あなたにはセンスがかけらもない!!」


「センスがない!?」


 (センスがない……センスがない……センスがない……)

 頭の中で店員の声が反響する。

 確かに服装に関してはあまり気を使っては来なかったというか制服しか持っていなかったのは事実。そもそも気を使わなければならない場面がなかったからなのだが、少なくとも人並みに良し悪しはわかっていたつもりだった。


『ないわーマジセンスないわー』

『年頃の女の子に勧めるようなものじゃないよねー』

『彼氏にあんなの勧められたら速攻別れるわ、その場で』


 こちらの話を聞いていたらしい女子学生たちが口々にそんな批判の言葉をこそこそと言い合っている。あまりにも強い否定の言葉の数々に心が折れそう。まさか、俺が普通だと思っていたセンスは普通じゃなかったのか……!?


 愕然とする俺に店員がとどめの言葉をかけてくる。


「魔法職は魔法師装備一式と相場で決まっているのです。この方の能力値からしても間違いなく魔法力の上昇する魔法師装備を購入すべき。そんな簡単なこともわからないくせに、妙な知識で惑わすのはおやめください!!」


 バリバリバリ!と電気が俺の頭からつま先にかけて流れるようだった。

 確かに店員の言うとおりかもしれない。剣士装備の魔法専門職なんておかしい。可愛くないし、何より華がない。とんがり帽子あってこその魔法職。マントがたなびいてこその魔法職。揺るがしてはいけないテンプレがある。その際たるところを俺は汚そうとしてしまったのだ。


「じゃあこれをください」


 店員と俺とを見比べて少しだけ考えた後、陽ノ守は指を差す。俺は自分が恥ずかしくて陽ノ守の決断を見ることが出来なかった。


「お、お客様!?どうして!?」


 その声に顔を上げてみると、陽ノ守が指を差していたのは俺が進めた剣士装備だった。俺も驚いたが店員はそれ以上に驚いている。店員の疑問に、陽ノ守はあっけらかんとして答える。


「死ぬかもしれない戦いに、可愛さとか格好良さとかは必要ないと思うんです」


 そりゃそうだ!!

 陽ノ守の言葉に目が覚めたような気持ちだった。


「いやしかし……!!」


 陽ノ守が剣士装備を買うのがそんなに認められないのか店員はなおもとどめようとするが、陽ノ守はぴしゃりと言い放つ。


「これは佐藤さんが一生懸命考えて勧めてくれたものです。だから、私は佐藤さんの言葉を信じます」


 ひ、陽ノ守さん……!!

 陽ノ守の背後に後光が差して見える。俺と目が合うと、にっこりと微笑んでくれた。女神か……!!


 陽ノ守が心変わりしないことを悟ったのか、店員はどこかばつが悪そうに立ち去ろうとする。それを陽ノ守が再度引きとめた。


「あ、店員さん!もしよければ何かお洒落できるような装備はありませんか?」


「え?」


「確かに可愛さとかそういうのは必要ないかもしれませんけど、でも私も女の子ですから。店員さんの言うとおり、ちょっとでも可愛いものを装備できたらなって」


 ひ、陽ノ守さん……!!

 恐らくは天然なんだろうがちゃんと店員の面子も保とうとするその気遣い……!!女神か……!!


「す、すぐにお持ちします!!」


 陽ノ守の言葉に笑顔を取り戻した店員は、元気よく返事をしてアクセサリーを探し始めた。


―――


「佐藤さん、あの、どうでしょうか……」


 装備を物色していた俺に、買ったばかりの防具を装備し終えた陽ノ守が声をかけてくる。

 そこにはどこに出しても恥ずかしくない立派な剣士がどこか恥ずかしそうにもじもじしながら立っていた。店員の気遣いなのか、ところどころに女性らしさを出すための趣向が凝らされているが、どこからどうみても魔法師には見えない。そして陽ノ守のリクエストである小さなお洒落は陽ノ守の首にかかっている。店員が見繕ったのは燃えるような紅のアミュレットだった。


 正直滅茶苦茶可愛いです!!

 なんて面と向かって言う勇気はないので無難に似合っていると伝えると、陽ノ守は嬉しそうにはにかむ。一転の曇りもないその笑顔にアンデッドでもないのに浄化されてしまいそうだ。


「では、次は佐藤さんの防具を探しましょう!何かいい装備はないでしょうか」


 陽ノ守がそう聞くと、さっきの一件で気をよくしたらしい店員は二つ返事でOKしてくれた。


「この方の装備ですね。わかりました。能力値のかかれた紙を見せてください」


 そういえばどんな装備がいいかわからないときは店員に聞けと王様が言っていたのを思い出す。陽ノ守のように突出した能力のない俺は正直どんな装備がいいか迷っていたところでもあったので、参考に聞くのも悪くないかもしれない。


 紙に目を通した店員はしかし、目を伏せて首を横に振った。


「申し訳ありませんが、お勧めできる装備はちょっと判断しかねます……」


 やはり突出したものがないので判断するのも難しいのかもしれない。であればやっぱり自分で選ぶしかないか。


「そうですか。わかりました。じゃあ自分で選ぶことにします」


 そういって物色を再開しようとするが、店員が止めてくる。


「いえ、そうではなく……その……」


「まだ何かありました?あぁ、お金ならそれなりにあるので大丈夫ですよ」


 それなりにとはいいつつも、王様から貰ったお金は防具や武器の一つや二つ買ったくらいではなくなるわけもない大金だ。勇者じゃないといわれた俺にも他のみんなと同額支給されているのでそこは心配要らないはず。

 だがそういうことでもないらしく、店員はどこか言いづらそうに言った。


「あなたの低すぎる能力値で装備できる防具はここにはおいてないといいますか……いくら探しても無意味といいますか……」


 ……なるほどね。


「お邪魔しました……!!」


「あ、待ってください佐藤さん!佐藤さーんっ!」


 陽ノ守の声にも振り返ることなく、俺は泣きながら防具屋を後にした。

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