第4話 初めての仲間
「では能力値も明らかとなったところでお前達に支度金を与える。城下の武器屋と防具屋には話を通しておくから、好きな装備を選ぶと良い。よくわからなければ能力値にあった装備を見繕ってくれるだろう。その後の事は基本的にお前達に一任する。すぐに魔王を倒しに行っても構わんが、レベルの低い内では無駄死にするだけだ。まずは城下のギルドで簡単な依頼をこなしつつ力をつけるのがよいだろう。では頼んだぞ、勇者達よ!」
そう言って王様はやけにあっさりと俺達を城下へと送り出した。
突然自由の身にされて、どうしようかとみんなで城の入り口でまごついていたが、そんな中で鈴木が突然声をあげて注目を集める。
「俺の名前は鈴木誠一郎!鈴木でも誠一郎でも好きに呼んでくれ!ちなみに俺はすぐに冒険に出ようと思う!一緒に来てくれるって奴は手を挙げてくれ!」
鈴木のその発言に顔を見合わせた後、ぽつらぽつらと手が上がり始め、最終的にはほとんどの学生達が手を挙げた。能力値が最も高く、そして王様に対しても堂々と発言していた鈴木の言葉だ。とりあえず付いていこうと思うのが普通だろう。
俺は当然手を挙げなかった。さっきのアレが完全に尾を引いていたし、何より鈴木の指示に従って動くのが嫌だったからだ。単に大人数で動くのが苦手だというのもあるけど。
鈴木は集まった二十人余りと自己紹介なり何なりをしてすぐに打ち解けていた。さすがはコミュ力の鬼。あれだけリーダーシップが高ければみんなも安心して付いていけることだろう。
それでも鈴木のグループには入りたくないので辺りを見回してみると、既にもう一つ大きめのグループが出来ていた。鈴木のグループに入らなかった人はほとんどそこに取り込まれたようで、どこのグループにも属していないのはいつの間にか俺だけになっていた。
いかん。いかんぞ。このままでは間違いなくボッチだ。既に高校生活でボッチ街道を
かといってやっぱり鈴木とは一緒にいたくないので、もう一つのグループに声をかけようとするが、リーダー格らしい勝気そうな女子にすげぇ嫌そうな顔で睨まれた。声かけてくんなよオーラをびしばし感じる。おそらく俺の能力値が驚くほど低いことを知っているからだろう。さすがにそんな敵意剥き出しのところに入れてくれという気は起きなかった。
死んだ魚のような目で鈴木の集団を見ていると、気付いた鈴木がにっこりと笑って俺に向かって手を挙げた。
「どうした勇者!俺達と一緒に来ないのか?異世界の知識だけは豊富なお前がいてくれると助かるんだけどなぁ!」
絶対にそんなこと思ってないのがありありとわかるいやらしい笑みだった。知識だけと強調して言っているのも実に腹立たしい。周りにいる奴等もさっきの俺の嬉し恥ずかし能力値披露宴のおかげで完全に俺を馬鹿にしているようで、クスクスと笑いながらこちらを見ていた。少なくとも歓迎しようとしている奴は誰一人としていない。
くそぅ、どうして名前も知らないような奴等に笑われなければいけないんだ……!!許さん……!!許さんぞ鈴木ぃ……!!
だが能力値でいえば彼らの方が圧倒的に上なので、今はぐっとこらえるしかない。今の俺は最底辺。弱い犬が吠えたところで笑われるだけだ。
「来ないんなら俺達は行くぜ?せいぜい死なないように頑張れよ!さすがの俺も、知り合いが死ぬようなところは見たくないからな!」
そう言って歩き去ろうとする鈴木とその仲間たち。能力で圧倒的に負けている俺が言い返せることは何もなくただ見送ることしか出来ない。覚えてろよ!とか言って走り去りたい気分だったが余計に笑われるだけなのでやめた。さすがに惨め過ぎる。
「あの、ちょっと待ってください!」
だが、去ろうとする鈴木に向かって一人の女子が声をあげる。長い艶のある黒髪に花柄の髪飾りがチャームポイントの美少女、花子だった。
「やっぱりみんなで行動したほうがいいと思うんです。今のままじゃ佐藤さん一人になっちゃいますし、それにこんなところで一人でいるのは危ないんじゃないでしょうか」
「そうは言っても陽ノ守、あいつは自分の意志でああやって一人になってるんだぜ?俺が声かけたのだって見てただろ?あいつなら一人でもやっていける。なんせ勇者なんだから」
鈴木の軽口に回りもクスクス笑いながら同調するが、それでも花子――陽ノ守は折れない。
「でも仲間は多いに越したことはありません。それに佐藤さんは異世界について詳しいと聞きました。私達はこの世界について何も知らないわけですから、別な世界に詳しい佐藤さんに助言を貰いながらの方がいいんじゃないでしょうか」
必死に説得しようとする陽ノ守の肩に手を置いて、鈴木は優しい言葉で告げる。
「助言ねぇ。確かにあいつは異世界について詳しいのかもしれない。でもそれは漫画や小説の話だ。架空の世界の話なんだよ。実際に俺達が飛ばされたこことはまるで違う。それにあいつの能力値を見ただろ?完全に足手まといだ。俺達とはレベルが違いすぎる。あいつ一人がいたせいで誰かが怪我するなんてこと、俺はまっぴらごめんだ。あいつは戦いとは無縁の畑仕事でもしてるのがお似合いなんだよ」
鈴木の言葉に拳を握り締める。
でも、悔しいが鈴木が言っていることはもっともだと思った。
確かに俺は異世界については誰よりも詳しい自信があるが、それは漫画や小説の中の話であって、俺達が召喚されたこの世界について詳しいわけじゃない。俺の知識が通用するかどうかなんてあてに出来ないだろう。
それに足手まといになるという話も全くその通りだと思う。認めたくないけど正論だ。それほどまでに俺の能力値は低い。畑仕事でもしてろはさすがに言いすぎだけどな!!
鈴木の発言にグループメンバーも頷いていた。
言葉にはしていないが、満場一致で俺をグループに入れないという方向で意見は固まっているらしい。さすがに全員の総意には言葉を返すことも出来ず、陽ノ守も黙り込むしかない。
恐らく陽ノ守は俺が孤立してしまうことを気にして声をあげてくれたんだろう。その気持ちは嬉しいが、ここで俺を擁護するのは得策じゃない。話したこともない俺のことすら気にかけてくれる優しい子なのはわかったが、これ以上迷惑をかけるのは良心が痛む。
俺は陽ノ守に向けて声をかけた。
「いいんだ陽ノ守。腹立つけど鈴木の言うとおりだし、そもそも俺は集団行動に向いてないから。一人の方が気楽でいい」
「でも……」
「な?ああいう奴なんだよ佐藤は。構ってるだけ時間の無駄ってもんだ。さ、いこうぜ陽ノ守」
持ち前のイケメンスマイルで笑いかけた後、陽ノ守の肩を抱いて歩き出そうとした鈴木だったが、それでも陽ノ守は動かなかった。何かを考えているようで、少ししてからぱっと顔を上げて言った。
「わかりました。では私は佐藤さんと一緒に行きます」
「「……は?」」
俺と鈴木が言葉を発したのは同時だった。鈴木が焦ったようにまくし立てる。
「お前、自分の能力値見ただろ?絶対俺達と一緒にいたほうが活躍できるし、何より安全だって!対してあいつはほとんど何も出来ないようなもんなんだぜ?一緒にいたら冗談抜きで死んじまうぞ!?」
鈴木の口ぶりからすると陽ノ守の能力値も相当高いのだろう。だとすれば鈴木が手放したくないのもわかる。まぁ鈴木の性格から言えば陽ノ守が可愛いから側においておきたいとか言うのが主な理由だろうが。
それに陽ノ守が現状最底辺の俺と一緒に行動する理由はない。なのにこうまでして俺についてきてくれる理由は限られる。
――おいおい、ついに俺にも恋する季節の到来か!?ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおい!!
「でも二人なら死なないかもしれません。私はこの世界に来たみんなが誰一人としてかけることなく生き残ってほしいだけなんです」
あ、違うわ。これ完全に善意だけですわ。むしろ子供を心配する母親みたいな感覚ですわ多分。邪な気持ちを一瞬でも抱いた自分が恥ずかしくなった。
陽ノ守の意志が揺るがないことがわかったのか、わかったよとだけ言い残して鈴木は去っていった。面白く無さそうな顔をしていたので少しだけ胸がすっとしたのは内緒だ。
もう一つのグループもいつの間にかいなくなっており、その場には俺と陽ノ守だけが残される。
「本当に良かったのか?知ってると思うけど俺マジで弱いよ」
もはや隠すことも無意味なので正直に告げる。すると陽ノ守は穏やかな笑みを浮かべて言った。
「いえ、能力値で言えば私だってそんなに高くありませんから。あの、勝手に決めちゃってすみません。もしかして迷惑でしたか……?」
不安そうに聞いてくる陽ノ守の言葉にぶんぶんと首を横に振って答えた。
「いやいやいやいやそんなわけないでしょ!正直心強いよ」
むしろ能力値が高い人がパーティにいてくれる分には俺にとっては特しかない。正直さっきまでは一人でもどうにかやっていくしかないかなと思っていたくらいだが、こんな渡りに船のような話に当然乗らないわけもない。感謝こそすれ、迷惑なんてとんでもなかった。
俺の言葉に心底ほっとしたように胸を撫で下ろす陽ノ守。そこには裏表のような感情は一切見受けられず、本当に俺のことを心配してくれているだけのようだった。
――え、ちょっと何なのこの子、いい子すぎて直視できないんだけど。損とか特とかでしか考えてなかった薄汚れた思考の自分が嫌いになっちゃいそう。
「そういえば自己紹介をしてませんでしたね。私は陽ノ
「俺は佐藤清之介。こちらこそよろしく、陽ノ守」
こうして、俺は異世界に来て最初の仲間を手に入れたのだった。
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