魔王様!朝練です!
魔王の朝は早い。魔王軍のトップだからこそ規則正しい生活が重要である。
明朝のラジオ体操からのランニング、これがワシのルーティンである。決して、歳のせいで朝早くに目が覚めるわけではないと思いたい。そう自分に言い聞かせている。
ランニングのあとは軽く筋トレをして、魔剣の素振りを二百回。勇者と白兵戦となることも想定される。剣の戦いにおいても負けるわけにはいかぬ。
朝のまだ冷たい空気の中、汗をかくのが心地よい。ああ、露に濡れた草が日光に照らされて輝くのがまた美しい。
無論、体だけ鍛えればいいというわけではない。心技体の三つが揃ってこそなのだ。一呼吸整えてから、瞑想を始める。
瞑想はよいものだ。魔王として多忙な日々だが、その忙しさから僅かな時間ではあるが解放されるのだ。ストレスにもよいと聞いた。もちろん、魔法を使うための集中力を養うためでもある。魔王たるもの魔法においては勇者の上をいかなくてはならんのだ。
三十分くらいであろうか、瞑想を終えて目をあける。目の前が晴れやかになる。深く息を吸い、そしてできるだけ長く吐く。
この一帯にある朝靄を吸い込み、身体に取り入れて吐き出すのだ。
「まるで東方の賢者のようじゃ」
思わず笑いが込み上げてきた。
うん、今日は調子が良い気がする。世界征服のための名案が次々と考えることができそうだ。さあ仕事に取りかかろう、鉄は熱いうちにだ。
「いや、朝食をちゃんと取ってからじゃな」
腹時計は正確だ。いや、食事も鍛錬の一部、疎かにはできん。栄養のバランスをよく考え、でも白飯とシャケ、味噌汁、卵焼きは欲しい。
さあ、朝食がワシを待っている。我が城へ急ごう。
何やら城のほうが騒がしい。家臣が朝からケンカでもしてるのか、それとも料理の失敗でもしたのか、仕方のないやつらだ。
「ま、魔王様! 勇者たちの討ち入りです。た、助けてください」
「な、ワシが城に居ぬ間に勇者が来ただと。待っておれ、今行く」
毎朝のルーティンが裏目に出たか。だが、ここはトレーニングの成果を見せようではないか。勇者よ、お主に負けぬようトレーニングをしておるのだからな。
「ッ――」
突然の激痛。ワシは立ち上がれなくなってしまった。こんな時に、ぎっくり腰だと。年寄の冷や水と言いいたいのか。
まだだ、ワシは動ける。家臣のもとにたどり着き、命ある限り勇者と戦うのだ。
白飯とシャケの塩焼き、卵焼きと希望通りの朝食にありつくことができた。だが、それは翌日病院のベッドで目覚めたときの朝食であった。
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