第80話 Fine play(ファインプレー)
『Loosers守備の交代をお知らせします。ピッチャー藤田に代わり、佐々木、背番号18』
無機質な声が投手の交代を告げ、満員の東京ドームが大歓声に包まれた。
「佐々木さん、お願いしますよ!!」
いつもにこやかにリリーフカーを運転している彼女も、今日は興奮に頬を
一塁の横でリリーフカーを降りた俺は、ゆっくりと一歩一歩踏みしめる様にマウンドに向かった。
いつもならマウンド上でうるさい野手の面々だが、今日は無言で押し黙っている。
キャッチャーの小島からボールを手渡しで受け取ると、小島が短く俺に激を飛ばす。
「ノーサインで行くぞ、ブチかましてやれ!」
「うす!」
内野陣は無言のまま信頼を込めた目を向けて、俺のケツをグラブで叩いてから守備位置に散っていった。
『エンジェリーズの攻撃は、二番・センター・トラウトン』
ウグイス嬢の声が最強打者の登場を告げ、優勝を期待して東京ドームに詰め掛けたエンジェリーズファンから悲鳴のような声援が上る。
トラウトンは、観客の熱狂にも顔色一つ変えず、バッターボックスの手前で軽く素振りをしてから打席に入った。
大歓声の中でもマウンドに届く風切音の鋭さに、俺の闘志も掻き立てられる。
『プレイッ』
小島の目を見てゆっくり大きく振りかぶると、左足を高く上げ一度大きく息を吐いてから投球モーションに入る。
(打てるもんなら打ってみろ!)
振り降ろした俺の指から離れたストレートはトラウトンの胸元を
小島からの返球を受けると、間髪入れず二球目のモーションに入る。
二球目は今と同じコースから外に逃げるナックルカーブだ。
俺は指先に神経を集中し、狙いを定めて指を弾く。
(よしっ!)
狙い通りのコース・スピードだったが、超人的な反応で対応したトラウトンのバットから放たれた打球が、1・2塁間を鋭いゴロで襲う。
(マズい!)
打球の速さに辛うじて反応した視線の先では、セカンドの有田が飛びついて打球を止めるファインプレイを演じたが、俊足のトラウトンを一塁で仕留めるには体制が悪すぎた。
記録はトラウトンの内野安打。
有田がグラブに右手を当てて、アウトにできなかった事を
『エンジェリーズの攻撃は、三番・指名打者・
一発が出れば逆転という状況での小谷の登場に、エンジェリーズファンの大声援がボリュームを増す。
俺はアドレナリン全開にして小谷を睨みつけると、小島の目を見てなんとか意思を伝えようとする。
分かったのか分からないのか、頷いた小島を見て捕ってくれる事祈りながら
150kmを超えるスピードのボールがホームベースの手前で急激に落ちて、落ちる球に弱い小谷は狙い通り引っかけてくれる。
ピッチャーの前に転がって来た打球だったが、待って取ればセカンドは間に合わない、俺は
(よし、このタイミングならダブルプレイいける!)
打球をグラブで拾い上げようとした瞬間、足元が滑り体勢を大きく崩す。
(くそっ!)
諦めかけた瞬間、俺の視界に小島が入った。
その眼を見て、俺は瞬時にグラブで小島の右手目掛けてボールを弾く。
小島はそれを空中で直にキャッチすると、鉄砲肩で二塁のベースカバーに入っていたショートの鈴本に送球した。
『アウトッ』
トラウトンのスライディングを華麗なジャンプで
『アウトッ』
絶体絶命のピンチで飛び出したダブルプレイに、Loosers応援団から大歓声が沸き起こった。
「小島さん!」
「アイコンタクトだよ!」
感謝の視線を送る俺に小島がウインクを返す。
(よしっ、ツーアウト!あと一人だ!)
『ブンッ』
スコアボードを振り返り、アウトカウントを確認する俺の耳に鋭い音が飛び込んでくる。
(最後はお前だ!
闘志を燃やす俺の目に映っているのは、マウンドまで届きそうな風圧でフルスイングしている町上の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます