第75話 Die out the team(球団消滅)

「きたはらくんが、急変って!?」

「詳しくは分からないんですが、静岡のがんセンターに転院するそうです」

「そ、そんな…」

「落ち着いたら連絡するから声をかけてやってくれとおっしゃってました」

「…」


 ショックのあまり声も出ない俺を気遣きづかう様に、佐々木が励ましの声をかける。


「大丈夫ですよ、静岡のがんセンターは全国でも有名らしいですし、また大活躍して勇気づけてあげましょうよ!」

「う、うん、そうだね…」


 なんとか気を取り直してロッカーに戻ると、小塚おつか家具のTOBを巡る選手たちの話は更にヒートアップしていた。


「TOBだって成功するかどうか分かんないじゃないですか!」

「投資家だってもうける為にやってるんだから、わざわざ高値で買いますよって言ってくれてんのに、売らないバカ居ないだろ!」

「そんなの分かんないじゃないですか!」

「だいたい、小島が小塚家具なんかに話持ってくのが悪いんだよ!」


 怒りの矛先が青白い顔で放心状態になっている小島に向けられる。


「そんなっ!小島さんはチームのためを思って行動してくれたんでしょうが!今更何言ってんすか!!」


 怒りで顔を真っ赤にして小島を擁護ようごする秋田に、ベテラン選手たちから心ない声が飛ぶ。


「お前はいいよ、前途有望な若手だからさ! 俺らベテランはクビ宣告された様なもんなんだぞ!」

「そうだ、お前、裏で後沢あとざわから引き抜きのオファーでも貰ってんじゃないのか?」

「ふざけんなっ!」


 殴りかかろうとする秋田を、藤田と渡辺が必死に止めに入る。


「お前ら落ち着け!俺らがここで言い争っても仕方ないだろ!」


 藤田のかつで拳を降ろした秋田は、荷物をまとめて舌打ちをしながらロッカールームを出て行く。


「おい、佐々木、帰るぞ」

「あ、はい…」


 大股に歩く秋田の後を追って、10年落ちのBMWに乗り込む。

 秋田は運転中も押し黙ったままで、その表情からは怒りに混じって無念さがにじみ出ていた。


「あの、秋田さん…」

「分かってるよ!」


 会話を避ける様に短く吐き捨てて、また黙り込む秋田を見ながら、俺はチームの崩壊ほうかいが始まったのを感じ取っていた。


 それからの動きは目まぐるしく進み、3営業日を待たずにTOBは成立。

 小塚おつか社長の退任会見と共にLoosersとの提携は白紙に戻り、Loosersはチームの存続を断念。

 翌週のオーナー会議で、来季からのLoosers消滅とWinnersの新規参入が了承され、後沢が誇らしげに某メジャーリーガーの獲得を宣言した。


 失意の俺たちは、なすすべもなく連敗を続け、泥沼の18連敗でシーズン最終戦を迎える。

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