第72話 Consecutive victory road(連勝街道)

 やたらと俺に親指を立ててくる秋田たちを無視しながら遅い夕食を堪能たんのうしていると、寮の電話が鳴り響き、児玉が慌てて取りに行った。


「こんな時間に寮に電話とか珍しいな、佐々木!お前なんかやらかしたの?」

「俺じゃないっすよ、秋田さんでしょ!」


 軽口を叩き合っていると、児玉が血相けっそうを変えて飛び込んできた。


「お前たち、大変だ! 提携話がまとまったそうだぞ!」

「提携話まとまったって!? マジっすか!?」

「マジに決まっとろうが、バカモン!」

「やったぁー!」


 児玉にドヤしつけられながらも、秋田は一緒にテレビを観ていた同僚たちと大はしゃぎしている。

 そう言えば今日球団事務所でお偉いさん同士の顔合わせだと、以前の飲み会で小島が言っていたが、そんな簡単に即日で決まる様なものなのだろうか…。


「でも、児玉さん、そんなにすぐに決まる物なんですか?」


 俺の疑問に児玉が答える。


っちゅう事らしい、小塚おつか家具が支出する金額とかその辺の大枠は合意できたんで、後はパブリシティーの範囲やら何やら細かい決め事を調整して本契約するそうだ。

 ま、細けぇ事は明日球団職員の鈴木にでも聞いてくれ」

「なるほど…」


 うなずく俺を後ろから秋田が羽交い絞めにしてくる。


「なぁにがなるほどだ!格好つけてないでお前も喜べ!」

「は、はい!」


 結局その日は俺のノーヒッターのお祝いも兼ねて深夜まで騒ぎが続いた。

 翌朝、勝利投手の特権である朝寝坊を思う存分享受きょうじゅした俺は、寝ぼけまなこで食堂を訪れた。


「児玉さん、おはようございま~す」

「なぁにが、お早うだバカモーン! 新人は新人らしゅう早起きして練習せんか!」

「ノーノーの翌日くらい勘弁してくださいよ!」


 起き抜けの大目玉をさらりとかわすと、トレイを持って催促さいそくする様に厨房を覗きこんだ。

 厨房の中では児玉が振るう大きな中華鍋で煽られた黄金色のご飯がパラパラと宙を舞い、香ばしいXOジャンの香りが食欲をそそる。


「もう出来るから、そこの回鍋肉ホイコーローよそって待ってろ」

「はーい」


 練習免除の俺は好きなだけ食っても問題ない。

 回鍋肉を小高く盛り付けると、サービスで目玉焼きを2つ載せたチャーハンと卵スープを受け取り、ゆっくり咀嚼そしゃくしながら味わう。

 新聞の棚から持ってきたスポーツ新聞に目を通すと、どこから情報が漏れたのか昨日の今日でLoosersと小塚家具が資本提携に向けて前進と報じている。


「資本提携の話、もう載ってますよ!」

「ブンヤさんは耳が早ぇからな、先に新聞に載っちまったんで展開も早いだろう」

「へぇ~、そんなもんですかね」


 更に紙面をめくると、興味深い記事が載っていた。


【球界再編問題】


 経営難のLoosersに買収を仕掛けて来た草草ソウソウタウンに端を発した球団買収問題はLoosersと小塚家具との資本提携により暗礁あんしょうに乗り上げたが、球界参入を諦めない後沢社長は球団買収から新設球団による参入に舵を切っており、球界再編問題に発展。

 近く開かれるオーナー会議で承認されれば、来シーズンからス・リーグは7球団によるリーグ戦となるかもしれないらしい。


「新球団で参入とか、知ってました?」

「おう、金持ちのやる事は想像もできんな」

「まったくですね」


 月並みな感想を述べあいながら、中華のランチを食べ終えた所で、きたはらくんのお母さんから電話がかかってくる。

 本人の同意さえあればすぐに手術できるように調整してあったそうで、急な話だが明後日に行う事になったそうだ。

 あいにく俺は遠征に帯同しなければならないため、その旨を伝えると本人に代わってくれた。

 他愛たあいもない話をした後「応援してるから、頑張ってね!」と伝えて電話を切る。


 全ての歯車がかみ合ってよい方に回り始めたような俺の予感は、翌々日、遠征先にきたはらくんお母さんから手術成功のしらせが入った事で確信に変わった。


 そしてその日からLoosersは球団新記録の15連勝を記録する事となる。

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