第38話 Raccoondog night(タヌキの夜)
なんとか山小屋に辿りついて
物音を立てない様に忍び足で小屋に近づく。
大丈夫だろうとは思うが、もしも野生動物の巣になっていたらもう逃げる体力も戦う気力も残っていない。
息を
今にも壊れそうなドアが不気味に
(ふぅっ、空気を入れ替えるか)
窓辺に移動し、建付けの悪い窓に悪戦苦闘しながらやっとの思いで窓を開けると、山の新鮮な空気が山小屋に息吹を与えてくれる。
重たいリュックを肩から降ろし、夕焼けの
(さすが児玉さん!)
冷静に考えれば俺をこんな目に合わせた張本人の1人だが、人は目の前の出来事に反応してしまうものだ。
ランタンのスイッチを入れると無機質な光が室内を照らす。
山小屋は10畳くらいの広さだろうか、ガランとした部屋の奥に2畳位の小上がりのようなものがある他は、日曜大工の素人が作ったような木のテーブルがあるだけだ。
俺はテーブルを小上がりの脇に移動させると、持っていた手拭いで小上がりを拭いて腰掛ける。
テーブルにリュックの中の荷物をぶちまけると、食べ物と飲み物を探した。
とりあえず、食パンとサバの
ポータブルのカセットコンロと、アウトドア用のコップも入っていたので、ペットボトルの水とインスタントコーヒーの粉末を入れて直接火にかけた。
(インスタントコーヒーってキャンプ感あるよな)
サバも温めたい気持ちはあったが、空腹の方が勝っていたので常温のまま貪るように食べる。
食べ終わる頃には火に掛けたコーヒーも沸いてきたのでコップを手にする。
(あちぃ!)
焦って指先を見るが、
(やべぇ、火傷して練習できませんでしたとか言ったら殺されるとこだった)
俺はコンロの火を止めると、リュックに入っていた新しい手拭いをコップの取っ手に巻いて、恐る恐る口を近づける。
(あちぃ!)
さっきまで
冷めるのを待つ間、小上がりに寝そべってとりとめもないことを考える。
(キャンプが趣味のヤツとか、こういう時に美味しいご飯作れるんだろうな)
(ソロキャン芸人の動画とかもっとみとけば良かったな)
(北原さんとキャンプ行ったら楽しいだろうな)
そんな事を考えている時だった、部屋の隅から不意に生き物の気配を感じた。
気配の方に視線を送るが、テーブルの陰になって姿が見えない。
何か分からないその生き物に刺激を与えないように、ゆっくりと静かに体をずらしていく。
(もう少し、もう少しで姿が見える…よし!)
俺の目に映ったのは丸い尻尾が可愛らしい野生のタヌキだった。
人慣れしているのだろうか?
拍子抜けした様に見つめる俺と目が合ってもさほど驚いた様子はない。
タヌキは
だが、野生動物の
…でも、ちょっとだけなら。
俺の
タヌキは恐る恐ると言った感じではあるが近づいてきて欠片を口にし、美味しそうにペロリと平らげると、
(もうないのか?)
といった顔で見つめてくるが、これ以上はもうやれない。
タヌキはしばらく
(可愛いなぁ、そういえば北原さんもタヌキ顔だなぁ)
笑顔の北原さんを思い出そうとする気持ちと裏腹に、この前木寺と一緒にいた沈んだ顔の北原さんの顔が浮かんでくる。
(木寺の野郎、北原さんにあんな顔させるなんて…)
木寺の日焼けしたスカし顔が浮かんできてはらわたが煮えくり返る。
(でも、大人なんだし、結局は2人の問題だし、俺に出来る事なんて…)
(いや、でも、木寺の野郎は家族も居るのに、不倫だぞ?)
(だいたい、北原さんは何だってあんな奴と…)
(いや、そもそも2人はそういう関係なのか??)
悶々としていると思考の迷路にはまり込んで抜け出せそうにない。
『考えるんじゃない、感じるんだ!』
不意に吉本監督の言葉が脳裏に蘇った。
(そうだ、俺の心が求めるものを感じよう)
目を閉じて心を落ち着ける。
(考えるな、感じろ!)
目を閉じて
「2人が今現在どういう間柄かなんて関係ない、北原さんに惚れさせればいいんだ、例え時間がかかってもそういう男になってやる!!」
声に出して言った事で、心のモヤモヤが晴れた様に感じた。
「うぉぉぉおおお、やってやるぞ!!」
テンションが上がって居ても立ってもいられなくなった俺は、ぶっ倒れるまで腕立て伏せをして、突っ伏すように眠りに着いた。
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