第28話 Rival(好敵手)
東京ドームの通路を駐車場へと歩きながら、秋田がポツリと呟く。
「木寺さん、やっぱり引退すんのかな?」
「とりあえず、しばらく謹慎するみたいですよ」
「そっかぁ、後半に守備固めに入ってくれると安心できるんだけどな…」
「確かにそうですね…」
秋田の言う通り、俊足を生かした守備範囲の広さには安心感がある。
(信頼感か…)
吉本監督から言われた言葉を思い出していると、秋田が苦々しい顔をして続ける。
「でも、あの写真はアウトだよな、ちょっとキモいもん」
「確かにキモかったですね…」
締まりのない笑顔で結婚式のまねごとをしている写真を思い出して、俺も表情を曇らせた。
「まぁ、普段から根拠のない自信に満ち溢れてるタイプだったから、俺らからするとちょっとアレだけど、女はああいうタイプに騙されやすいのかもな」
「秋田さん、手厳しいですね、さっきは守備を褒めてたのに」
「それとこれとは別だろ、嫁さんも子供も居るのにあんな事やっちゃうんだぜ、信用できねぇわ」
「確かにそうですね…」
(プレイだけじゃ信頼感は得られないって事か…)
駐車場に出ると、周りには熱心なファンが選手に労いの言葉を掛けようと集まっている。
その中には、いつもの様にきたはら少年の姿もあった。
「ささき~!完投勝利おめでと~!!」
「ありがと~!!」
きたはら少年に笑顔で手を振ると、秋田のBMWに乗り込み、首都高環状線をLoosers寮に向かって荒川沿いに走る。
「お前、女のファンは居ないのに、子ども受けはいいんだな」
そう言われると、確かに女性の声援は少ない気がするが、ゴリラ顔の秋田に言われる筋合いはない。
「秋田さんもでしょ」
「お前先輩に向かって、生意気だな!」
「それに、あの子この前はLAまで見に来てくれたんですよ」
「そっか、じゃあ、新人王取って応えてやんなきゃな」
正直、新人王などは考えてもいなかったが、ここまで既に3勝を挙げているのだ、もしかしたら有力候補なのではないだろうか。
俺は恐る恐る秋田に聞いてみた。
「そ、そうですね…本命は誰ですかね?」
「そりゃ、ヤタルトの
チームメイトのよしみで俺の名前を出してくれる事を期待していた俺の希望を、あっさりと打ち砕いた秋田が更に続ける。
「二年目だけど、あれだけ振れる奴はそう居ないよ、十代で既に二桁ホームランだろ、二十本打てば松井さん以来だからインパクトあるよ」
「そうっすか…」
落ち込む俺に気づいて、秋田が慌てて言葉を続ける。
「お前も二桁勝てばイケるって、それに町上は三振が多いから直接対決で三振取りまくれば印象も良くなるしな!」
「まずは二桁…」
「そうそう、俺とお前の二桁コンビで最下位脱出だ!」
「分かりました!頑張りましょう!」
(まずは二桁、新人王、そしてエースだ)
俺は流れる東京の夜景を見ながら決意を新たにした。
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