第27話 Immorality(不道徳)
追い出される様に監督室から出ると、ドアの外には俺の姿をした佐々木とベテランの代走・守備固め要員の木寺が立っていた。
脇に避けると、佐々木がドアをノックする。
「監督、木寺さんを連れてきました」
「入れ!」
中から吉本監督の声が響いてくる。
「失礼します」
消え入るような声と共に木寺が監督室の中へ消えて行く。
木寺は今日の試合では出番がなく、そういえばベンチでも姿を見かけなかったななどと思いながら、不審な表情で監督室のドアを睨んでいると、佐々木が隠し持っていた週刊誌を渡して来た。
「これの事みたいですよ」
渡された週刊誌には煽情的な見出しが躍っている。
『盗塁王、夜の重盗失敗』
ページをめくって読んでみると、木寺はダブル不倫でお互いに妻子がありながら重婚まがいの写真を撮ったりしていたようで、今の奥さんとは離婚調停中とある。
『今シーズン盗塁成功率100%を誇る盗塁王も他人の妻との重盗はさすがに難しかったようだ』
茶化した皮肉で締めくくられた記事を読み終え、週刊誌を佐々木に返す。
「これ、本当なの?」
「試合中に本人に事実確認したんですけど、本当の事みたいです」
「で、球団としてはどうするの?」
「とりあえず、監督と木寺さんとで話をして、明日オーナーと球団代表と四者面談するそうですけど…」
「けど?」
「とりあえず、無期限謹慎処分にして様子を見る事になるだろうって、広報部長が言ってました」
「そっか、まぁ、妥当な処分かもね」
「世間は有名人の不倫とかにうるさいですからね」
「これがエンプロイーバイアウトの話に影響しないといいんだけど…」
そう言いながら腕を組んで考え込んでいたが、気づくと佐々木が心配そうな目で見ている。
「どうしたの?」
「いや…、鈴木さんもあんまりハメを外さない様に気を付けて下さいね」
「バッ、俺は大丈夫だよ!」
「なら、いいですけど…」
「それより、聞きたい事があったんだけど、エースってさ」
佐々木にエースの心構えを質問しようとしていると、先輩投手の秋田から声が掛かった。
「おーい、佐々木、帰るぞ!」
俺は間の悪さにしかめっ面を作っておどけてみせると、佐々木に囁いた。
「こっちでもあっちでもいいから、今度会った時にエース論聞かせてよ!」
「はい、僕でよければ」
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